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「なるほど、ねぇ……。ナガト三尉達のために、あんた、そんなこと考えてたの」
「だって、どう考えてもおかしいじゃない。まとめて処分しちゃおう〜なんて不穏なウワサは立ってるのに、なぁんでこんな大事件が、一切外に漏れてないの? こんなの前代未聞だわよう」

 首を傾げたチトセに、これ以上この話をしても意味はなさそうだ。そう判断して、マミヤは話題をソウヤに切り替えた。

「それにぃ、ソウヤ一尉ってば、なぁんでわたしの魅力に落ちないのよぉ」
「そりゃあんたは、確かに美人だけどさあ……。それとこれとは別っていうか」
「だってあの人、わたしが色気たっぷりに迫ったのに、『お断りだ』の一言で切って捨てたのよ!? マミヤほんとショック」
「うーわー、目に浮かぶ……」

 慰めるように軽く頭を叩かれたが、そんなものはなんの気休めにもなりやしない。
 あのとき、ソウヤは確かに揺らいだはずだった。「わたしのために、飛んで?」甘く、誘うように告げた。青い瞳が揺れ、一瞬の影が見えた。
 だのに、彼はマミヤの手を払ったのだ。そっと。けれど、はっきりと。

『お断りだ、お姫さん』
『……なぜだか聞いても?』
『“その権力”を使いたいなら、こっから出ていくこった。そしたら考えてやらんこともない。けどな、よーく覚えとけ。ここにいる限り、お前はただの軍人だ。俺に命令なんざ百年早いんだよ。――引け、マミヤ士長』

 翼を持つソウヤと、持たないマミヤ。
 確かにここにいる限り、その差は歴然だった。“お姫さん”の頼みを断り、“士長”に命じる彼の姿に、ぞくりとしたものを感じたことも事実だ。昏く、けれど鮮やかにきらめく青の双眸は、今まで見たどんな瞳よりも綺麗だと思った。
 マミヤの胸の奥を突き刺すような目。自信に満ちた声は僅かな揺れもなく、遥か高みに立つその人の重圧にマミヤは押し負けたのだ。
 ソウヤを懐柔することはできなかった。年齢と階級“だけ”は重ねた老骨達に取り入るのは簡単だろうが、さしものマミヤもそこまでの覚悟はない。この身体がどれほど魅力的なものであるかは自覚しているが、なんの興味も愛情もない老人相手に、身体を投げ出すことはできそうになかった。中途半端な覚悟だと罵られようと、自分が一番かわいいのだから仕方がない。
 上層部はなにを考えているのか。これからどう動くつもりなのか。一体今、あのプレートになにが起きているのか。
 知りたい情報は山ほどあるにもかかわらず、手に入れる術が微塵もない。
 どうしたものかと唇を尖らせるマミヤの頬を、チトセが弱い力で抓ってくる。「なぁに?」そのまま寝返りを打って仰向けば、チトセは曖昧な笑みを浮かべて頬を掻いた。

「んー、いや、恋愛の意味で迫ってたなら、ソウヤ一尉、どうしたのかなーって思って」
「そりゃ落ちてるに決まって……、って言いきれないのが悔しい〜! なんでよぉ、チトセと違って目はぱっちりしてるし鼻は高いし、胸だって大きいのに! こんなにも美人なのに、なんで誰も靡かないのよぉ」
「オイコラちょっと待てぃ! 確かにあんたは美人だけど! なんっであたしがこき下ろされてんだふざけんな!」
「いったぁ! なにすんのよ、暴力女〜!」

 べちっと音を立てて額を叩かれ、マミヤは思い切りチトセの脇腹をくすぐった。浅い付き合いではないのだから、チトセの弱点くらい知っている。水揚げされたばかりの魚のように跳ね上がったチトセがもんどりうち、下品な笑い声を上げながら降参を訴えてきたが、容赦なくくすぐり続けてやった。
 笑い転げるチトセの腹に跨り、脇腹や骨盤の辺りを重点的に責め立てる。「あは、はひゃひゃっ! ちょ、もっ、ひゃはっ、むりぃっ!!」涙目で訴えてくる様を見下ろしてやると、少し胸がすっとした。
 ――仕方ない、許してやるか。
 変わらず跨ったまま、マミヤはチトセを見下ろした。顔の両脇に手をつけば、押し倒しているような形になる。恋愛経験の乏しいチトセは、男性にこうされたこともないだろう。こんな距離で見下ろせば、同性相手でもどきりとするのだろうか。
 偉そうにそんなことを思ったが、自分も似たようなものだということには気づかないふりをしておいた。


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