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* * *



 ――絶対に許さない。

 この緑を奪うことを。
 この翼を奪うことを。
 鳥籠の中は快適か。
 そう問われたのなら、答えよう。

 そんなもの、クソ食らえだ。




「ソウヤ一尉、すこぉしお話よろしいですかぁ?」
「あ? お姫さんか、どうした」
「ヒュウガ隊のことなんですけども」

 切り出した途端、切れ長の青い瞳がすっと細められた。テールベルトの人間は、黒か茶色の目を持って生まれることが多い。ゆえに、ソウヤの瞳はテールベルトでは少し珍しいものだった。ヴェルデ基地内でもよく目立ち、成層圏に近い深い青色は「空を映したような色」と評判だ。
 テールベルト空軍特殊飛行部イセ隊所属、ソウヤ一尉。空戦競技会では何度も優勝を果たし、武道の大会においても好成績を残す緑防大出のエリート幹部。肩書きに見合った実力と、その目を瞠る整った風貌から、隊内外を問わず話題に上りやすい人だ。
 そんな彼の隊は、つい先ほど他プレートから帰還したばかりだった。シャワーを浴びたばかりなのか、彼の引き締まった身体からは爽やかな石鹸の香りが漂っていた。
 話の内容が内容なだけに無言で場所替えを促され、マミヤは軽く頷いてそれに応じた。すぐさま端末で空いている会議室を押さえて、滑り込む。がらんとした室内。電気をつければ、白い光が目を刺した。
 長机に腰かけ、ソウヤは難しい顔をして腕を組んでいた。
 ――きれーな青。緑だったら、もっとよかったのに。

「まずはお帰りなさい、って言って方がよかったですかぁ?」
「んなこたどうでもいい。それより、ヒュウガ隊になんかあったのか」
「表立ってはなぁんにも。でも、スズヤさん達には会えなくなっちゃってます。上層部がどういう動きをしているのか、ソウヤ一尉ならご存知かなぁと思いまして」
「……いや。俺にも下りてきてねぇ。お姫さんが知らねぇなら、俺が知るわけねぇだろ」
「“教官”、その呼び方やめてくださぁい」
「そいつぁ失礼しました、マミヤ士長殿」

 わざとらしく敬礼を見せつけられ、マミヤはぷぅと頬を膨らませた。
 意地の悪い笑みが端正な顔立ちに乗っている。入隊してきたばかりの頃、マミヤが割り振られた班の指導教官がソウヤだった。人を泣かせることが三度の飯より好きだと公言しているだけあって、何度泣かされたか分からない。そう遠くはない過去の光景を思い出すと腰が引けたが、さすがに今はそんな意地悪はしてこないだろう。大型のネコ科肉食獣を連想させる笑みを前にしては、いささか自信はないけれど。
 一筋縄ではいかない相手だが、それでも真っ先に浮かんだ相手はこの人だった。いくら王族の人間とはいえ、今のマミヤは軍の末端にいる一介の軍人に過ぎない。上層部の企みなど知る由もない立場だ。情報を握っている可能性がある上官は、幹部以上が絶対条件だ。その上で一般隊員とも壁を感じさせずに接触でき、なおかつどちらかというと“こちら側”の人間は――と考えると、あてはまるのはソウヤくらいなものだった。
 さてどう切り出そうかと思案していた矢先、ソウヤにぺしんと額を叩かれ、マミヤの眼前に星が散る。

「いたっ! なにするんですかぁ?」
「余計なこと考えてんのはお見通しだ。なに企んでる?」
「企んでるだなんて、人聞きの悪い。マミヤ心外〜、うっぷ!」
「おーおー、間抜けなツラだな」

 拗ねるように唇を尖らせれば、両頬を手で挟まれて顔が歪む。硬い親指と中指がぐりぐりと頬の肉を抉るように揉むせいで、息苦しいやら痛いやらで顔が忙しい。今や自分の顔がタコのようになっているだろうことが容易に想像できた。


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