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「簡単に言えば、同調は核がターゲットに選んだ生体との間に起こるものなの。つまり、」
「あたしらがターゲットになったってこと?」
「ええ。その通りよ、お嬢ちゃん。――それにしても、随分と落ち着いているのね。現実味がないのかしら?」
「それもあるけど、どっかのおにーさんに先に聞かされとったから。あたしらが白の植物に狙われるかもしれんって。その危険性が高いってな。でもそれより、ほの、大丈夫?」
「え……」

 大丈夫なわけがない。
 ミーティアがなにを言ったのか、奏がなにを知っているのか、知っていてどうして落ち着いていられるのか、なにもかもが理解できない。津波のように押し寄せてきた情報と感情に、どう対処していいのか分からない。
 震える手を力強く握られて、そのあたたかさに胸が震えた。
 ターゲットになった。――それは、どういうことなのだろう。
 白の植物に狙われる危険性が高くなった、だなんて、どうしてそんな恐ろしいことを平気な顔で言えるのだろう。倒れ込んでいた父の姿がよみがえる。あの惨劇は白の植物によってもたらされたのだ。
 世界が、白む。

「このプレートでの進化は未知数なんだ。――その上で言う。きみたちは、選ばれた」

 言い淀んでいたハインケルが、はっきりとそう言った。
 選ばれた。
 なにに。誰が。なんのために。
 数多の疑問が浮かび上がり、声にならない非難が目の淵に滲んでいく。未知の恐怖が足元から這い上がり、やがて全身を呑み込んでいくだろう。そのとき、目の前に平穏な日常はとうに消え失せている。

「選ばれた?」
「もうすでに、なんらかのマーキングがされていると言っていいでしょう。同調者は、核が放つ電気信号と同様の信号を放つと言われているわ。アレは植物であって、そうではない。意思を持っているのよ。定められた以上、逃げられない」
「どうやっても?」
「ええ。感染者は親を求めてやってくる。親は子に餌を与える。親の養分となり、子の餌ともなるそれは、アナタ達なのよ」

 思わずひっと悲鳴が漏れた。ミーティアは穂香を一瞥したが、その妖艶な唇から、穂香を気遣う台詞が零れてくることはなかった。代わりに、同情に満ちた視線がハインケルから向けられる。同情なんていらない。そんなものよりも、確かな安全が欲しい。
 奏は優しく背中をさすって、そのまま頭をそっと抱き寄せてくれた。優しい香りが鼻腔に入る。優しい手つきが胸に沁みる。「大丈夫やから」と耳元で囁く声に震えはなく、労わりと気遣いだけが滲み出ていた。
 状況は奏も同じはずなのに、彼女はいつだって前を向く。彼女の頭で現状が理解できないはずはないのに、恐ろしいことなど聞いていないかのように振る舞った。
 なんて情けない。穂香はこれ以上みっともない声を零さないようにと、必死で唇を噛み締めた。胃の奥に、錆びた鉄釘でも溜まっているかのようだ。じくじくと痛く、重く、苦しい。動くたびに釘が胃を刺していく。そしてやがて腐り落ち、あのおぞましい植物に蝕まれて死ぬのだろう。
 ――そうだ、死だ。
 今告げられた言葉は、穂香達の死を意味している。どう足掻いても逃げられない。白の植物は、ターゲットに選んだ自分達を追ってくる。植物だけではない。それに寄生された人達までもが、自分達を狙っている。
 考えれば考えるほど、目の前に広がった闇は暗さを増すばかりだ。「続けていいかしら」ミーティアが笑顔のまま、ペン先でテーブルを叩いた。


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