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「最近じゃあ、ヒュウガ隊の人達に会うのも難しくなってるし。監視が厳しくなって、査問会が動き出すかも〜なんて噂も出てるくらいだもの。外部機関の調査が入らないのが異常なくらいなんだから」
「うひゃあ……。そんなに? あ、言われてみれば確かに最近、ヒュウガ隊の人らと会わないかも」
ヒュウガ隊の全員と顔見知りというわけではないが、それなりに親しい隊員もいる。中でもスズヤは交流の深い上官だ。そんな彼らとは例の事件後も食堂で顔を合わせたりすることもあったのだが、ここのところ彼らの姿を見ていなかった。
マミヤが上半身を乗り出し、周りを気にしながら声を潜める。
「なにか上で大きな決定があったんじゃないかって、うち(空渡観察隊)じゃ持ち切りよぉ。それもよくない方の」
「よくない方、って……」
「ハインケル博士が投げ捨てられたのは知ってる?」
「投げ捨て、って、あんたね。――まあ、知ってるけど。でもそれって、三尉達のフォローに回すためでしょ?」
「バカねぇ。フォローのためなら、すぐにヒュウガ隊を追わせた方がいいに決まってるじゃないのよぉ。そしたら一気に、みんなまとめて処罰しちゃえば済むじゃない」
あけすけな物言いに怯むチトセに構わず、マミヤは耳元でそっと囁いた。
「――まとめて『処分』しちゃおうってハラなのかも、ってウワサ」
「はぁあああ!?」
「ちょっ、チトセ! うるさいわようっ!」
勢いよく立ち上がったせいで安いパイプ椅子を蹴り倒し、それに躓いた他の隊員のスープが器ごと宙を舞った。それがたまたま近くに座っていた上官の頭に、逆さまになった状態で落下していった。かこんっという間の抜けた音のおまけつきだ。
すぐさま鋭い叱責が飛ぶ。チトセは縋るような目でマミヤに助けを求めたが、彼女はなに食わぬ顔で食事を続けていた。
「(こんっの裏切り者!)」
「はい」と「すみません」をオウムのように繰り返し、なんとか上官の怒りを静める。叱られている内容は、落ち着けだのなんだの、いつものことだ。上官の言葉は右から左へと聞き流し、チトセはマミヤの言葉を何度も咀嚼しようと試みていた。こんなとき、足りない頭が嫌になる。
すっかり味が分からなくなってしまった夕食後、部屋に戻ってきたはいいものの、チトセはどうにも落ち着かなくて胸を掻き毟りたくなった。ごろりと床に寝そべったまま、ベッドに座って本を読んでいるマミヤに声をかける。
「ねえ、マミヤ。さっきの『まとめて処分』ってどーゆー意味? 処罰とどう違うわけ」
「え? ああ、アカギ三尉達ってなにかと問題起こすでしょ? だからぁ、そのまま他プレートに放置して、のっぴきならない問題起こしてもらったところで、責任取らせてポイしようって魂胆じゃないのぉ?」
「っ、なにそれ! そんなことが許されんの!?」
「あくまでもウワサよ、ウワサ。なんにせよ、普通じゃないことには変わりないんだけど。――ま、それだけで済んだらいいけどねぇ」
美人は物憂げな溜息すら絵になる。どういう意味かと訊ねると、マミヤは苦笑して「特殊部隊入り目指してるんなら、それくらい自分で考えなさぁい」と指弾してきた。
処分と処罰と、どう違うのか。問題を事前に予期しながら手を打たないでいることの方が、より問題視されるのではないだろうか。ならば一体、上はなにを狙っている。
考えても考えても答えは出ない。ぐっと唇を噛み、チトセは項垂れた。今の熱した頭では、冷静な考えなどとてもじゃないができるはずもなかった。