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 このプレートにおける寄生植物を調べていくことは、白の植物が持つ寄生の謎を解明することにも繋がる。すべての造りが違うわけではなく、どちらももとは同じ植物だ。ただ進化の過程が異なっただけと考えれば、そう難しい問題ではないように思える。実際がどうかは別として、の話だが。

「寄生植物と一口に言っても、その種類はいくつかに分けられるんだ。半寄生、全寄生、活物寄生に死物寄生」
「なるほど。こっちでも寄生植物なんてものがあるんですねぇ」
「うん。植物の本質はそう変わらない。でも、白の植物とこのプレートの寄生植物は、決定的に違う」
「というと?」
「白の植物は、半寄生、全寄生、活物寄生、死物寄生、このすべてに当てはまる。半寄生から始まり、生きた宿主や死んだ宿主に関わらず全寄生していく。白の植物がこのプレートの植物と大きく違うのは、寄生する植物の本体が宿主に接触していないということなんだ」

 それは白の植物に関わる人間にとって、周知の事実だった。改めて説明するような話ではない。それでも、油を差したばかりのギアのように動き出した口は止まらない。

「たとえば、真っ白な林檎の木があるとする。汚染された有害な白の植物だ。これが宿主を野兎に定めた場合、木の根が兎を取り込むなんてことはあり得ない。花粉と共に特殊な胞子を飛ばし、徐々に野兎の神経を冒していく。そして電気信号を送り込み、完全に神経回路を掌握したところで核(コア)が寄生し、そこから養分を吸収、次の宿主を探しにいく。こっちの植物みたいに、触れている必要はない」
「毎度のことながら、植物というよりは動物……いや、バケモノみたいですねぇ」
「……きっと、そう、です」

 我に返って縮こまれば、モスキートは妖しく微笑んで頭を掻き回してきた。か細いように見えて大きくしっかりした手のひらに頭を撫で回され、世界が揺れる。
 この人は一体、なんの用でここに来たのだろう。伺うように上目に見上げたが、彼は頓着せずに席を立った。

「貴方、ミーティアさんをよろしくお願いしますね。あの人、ああ見えて昔から詰めが甘いんですよ。まあ、そういうところが可愛いと言えば可愛いんですが」
「え、えっと……、はい?」
「ビリジアンに早々に遊びに来てくださっても構わないんですよ。――それでは、失礼します」
「えっ、あの、……行っちゃった」

 本当に一体なんだったのだろう。訳が分からない。ミルキーパープルの髪と顔色の悪さを思い出し、吸血鬼の見せた夢だったのではないかと空想に至ったが、首筋に当てた手のひらには血などついていなかった。

「変な人……」

 気を取り直して顕微鏡を覗きながら呟いた独白に、スツーカは答えない。それでよかった。答えなど求めた呟きではなかった。
 一通りやることを終えると、身体が睡眠を求め出す。いつの間にか気を失い、ああよく寝たと起き上がると――、

「あいたぁっ!!」

 陳列棚さえ連想させる狭苦しい三段ベッドで、ハインケルは朝から星を散らすはめになった。


* * *



 夕食には、鮮やかな緑色のブロッコリーが出た。一緒にカレー粉で炒めたカリフラワーも。
 母と二人だけの少し寂しい夕食を終えたあと、母が買ってきた薔薇の入浴剤を溶かした風呂で身体を休めた穂香は、一人自室に篭もって黙々と勉強していた。
 歴史の年号、英語、数学。それらを適度な休憩を挟みつつ頭に叩き込んでいく。地道にこつこつ重ねていくのが穂香の勉強スタイルだ。姉の奏は受験前にまったく勉強せず、一夜漬け状態でセンター試験に臨んだというのだから驚きだ。
 受験まであともう僅かな時間しか残されていない。英語の長文問題に取りかかっていたところで、南向きの窓からコツンと小さな音が聞こえた。コツン、コツン。風の音とともに、なにかが窓を打ちつける。
 分かっていても慣れず、大げさなまでに心臓が跳ねた。震える手で窓を開け放つと、ぶわっと大きな風が吹き込んできて髪を煽った。癖のない黒髪は大きく波打ち、やがてすとんと背中に落ちる。
 暗闇の中、映画やアニメの世界に出てきそうな、鳥のように翼を広げる“木”にぶら下がったナガトが、穂香を見るなり優しく笑った。

「こんばんは、ほのちゃん。お邪魔するね」

 しゅっと音を立てて三十センチほどの竹筒のような形になったそれは、飛行樹(ひこうじゅ)と呼ぶらしい。ボタン一つで翼が飛び出し、ハンググライダーのような形に枝や葉が広がる。携帯用のもので、こちらの感覚で言えば折りたたみ自転車のようなものだと、初めて見せられたときに彼は言っていた。「移動には便利なんだよ。使ってみる?」そんなことを軽く言うものだから、ナガトはアカギにぴしゃりと叱りつけられていたけれど。
 初めて飛行樹を目にしたのが三週間前――ちょうど、父が白の植物に感染し、ミーティアやハインケルという新しい珍客が来たあの日だ。あのあと、穂香と奏は彼らからゲームの世界のような話を聞かされた。
 白の植物の驚異は、異世界の緑をも侵略する。穂香達は濃厚接触者であるがゆえに、白の植物を引き寄せやすい。この世界はまもなく未曾有の大混乱を迎えることになる。世界を救うためには、濃厚接触者である穂香達の協力が必要だ、と。随分と噛み砕いて話したと言ったが、大筋はこんなものらしい。

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