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 兵器。
 生きた道具。
 目の前で白の植物に侵されて死んでいった仲間達が、そうだったとでもいうのか。たったそれだけの言葉で片付けられるものなのか。
 思わず怒鳴り散らそうと口を開いたアカギよりも先に、ナガトが冷え冷えとした顔に怒りを滲ませて吐き捨てていた。

「俺らは兵器なんかになるつもりはありません。……軍人として、あるまじき行動に出たことは自覚しています。しかし、人として、間違ったことはしていません」
『……青いねー。それでいろんなところに迷惑かけまくって? 仲間を救うために、たった二人で英雄ごっこ? プレート渡って核(コア)を見つけて、仲間を殺した悪魔を駆逐しようって? 素晴らしいじゃないか。拍手!』

 嘲笑と怒気の滲んだ笑い声と拍手が、ぐっと胸に突き刺さる。間違ったことはしていない。けれど、正しいこともしていないのは事実なのだ。軍人として組織に属する者としては、間違いだったとしか言いようがない。
 なにも言えずに押し黙る。しばらくすると、落ち着きを取り戻した低い声が聞こえてきた。

『ガキ共。行っちまったからには仕事しろ。いいか、表向きは俺達の隊全員が動いてることになってる。どういうわけか、“そうしろ”っつー上からの命令だ。なんかしくじってみやがれ、俺の顔潰すことになる』
「艦長……」

 今回のことで、もう十分すぎるほどその顔に泥は塗ったはずだ。それなのに、その声に軽蔑や嫌悪は混ざっていない。
 二人を強制的に帰還させる方法だって取れたはずだ。いや、むしろそれが最良の選択のように思える。進言すると、「お前らが言うな」と一喝され、二人はまたしても身体を小さくさせた。

『ありえねぇことばっか起きてんだよ、今は。続々と各隊がそのプレートに向かってる。俺たちゃ謹慎だし、通信だって規制されてる。俺だって訳が分からん。……てなわけで、強力な助っ人を用意した』
「助っ人?」
「誰っすか、それ」

 スピーカーの向こうで、ヒュウガがにやりと笑ったような気配がした。

『ハインケル博士だ』
「「はっ、ハインケル博士ぇ!?」」

 ぎょっとして思わずマイクに詰め寄った。思い切りヴィィインという不愉快な音が耳をつんざいたが、そんなことなどどうでもいい。今この耳に届いた名は、きっと聞き間違いに違いない。
 手のひらに汗を滲ませるアカギに、ヒュウガはどこか楽しそうに告げた。

『もうすでに個人用空潜艦でそっちに渡ったぞ。よかったな、お前ら。なにしろあの偉大なるハインケル博士がサポートしてくれるんだぞ』
「ちょっ、待ってください艦長! ハインケルって、あのハインケルですか!?」
『おーう、あのハインケル博士だ』
「あんまりですよ艦長! 俺らを殺す気ですか!?」
『馬鹿言うなー。あんっな博士、他に類を見ねぇだろー。――いいか、これも上が出した妥協案だ。せいぜい頑張りやがれ!!』

 一喝と同時に通信が切断される。
 辺りを支配した沈黙に、アカギは頭を抱えてうずくまった。

「マジかよ……」
「詰んだ。これ詰んだよ、どうすんのさアカギ。上層部の連中、体(てい)のいい厄介払いができて、今頃舞い上がってるだろうね。なんたってあのハインケル博士なんだから」

 白の植物における進化研究の第一人者であり、武器や新薬の開発において多大なる功績を挙げている、若き天才学者。
 祖父母、両親共に白の植物を研究する学者で、その社会貢献度はテールベルト、カクタス、ビリジアン三国の中で最も高いと言われている家系だ。
 プレートを渡るヴァル・シュラクト艦も、ハインケルの母親が発明したものだ。そして白の植物を燃やし、駆逐することができる有用な武器を開発したのが、彼の祖父と言われている。
 そしてハインケル自身も、さらなる研究を重ね、軍部だけでなく国家上層部にまで重用される実績を持っている。
 英雄のような扱いを受けても不思議ではない功績を持つ彼は、実のところ、なぜか蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われていた。

「ハインケルって……、よりにもよってハインケルって……。マジねェわ、なんであのハインケルなんだよ」
「どーせあの人、着地点探査なんてできないでしょ。さっさと回収しないとまずいんじゃないのコレ」
「回収ったって、ナガト、お前アレのコード知ってんのかよ」
「知るかよ俺が。今から検索かけ――ああ、その必要はないみたい。ご丁寧に送ってきてくださいましたよ、本部から。伝言付きで」

 苦々しくキーをいじったナガトの手元を覗き込む。
 小さな画面には、数行にも渡る数字の羅列と、たった一言の伝言が表示されていた。

「……ほんっと、大暴走決めた俺らにはうってつけの処罰だよ」
「……だな」

 最重要任務。
 ――絶対に、逃がすな。




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