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朽ちた欠片のその先に *21



 どうせなら、一つ残らず枯れ果ててしまえばよかったのだ。
 世界を満たす白が当たり前だというのなら、僅かな緑も残さず白く変えてしまえばよかった。そうすれば、誰もがその色を受け入れていたに違いない。
 緑の希望、色彩豊かな植物。
 そんなものは初めから存在しなかったのだと、そう思わせておいてくれればよかったのに。
 ――そう嘆いたのは、一体誰か。


「これはどういうことだっ!!」

 突き刺さる視線も、投げられる罵倒も、そのどれもが予想の範疇を越えはしなかった。あまりに想像通りで、なんの捻りもないものだと笑いが込み上げてきたほどだ。堪えきれずに口の端が持ち上がったのを見てか、糾弾はより一層激しいものとなる。
 緊急招集をかけた時点で、彼らの機嫌は最悪だった。真夜中に呼び出したのだから当然だろう。ましてやその呼び出す理由が理由なだけに、会議室は火に油を注いだような状態になっていた。誰もが飢えた猿のように喚き散らし、失態を犯したムサシを弾劾する。
 絶え間なく怒鳴りつける声に、さしものムサシもうんざりしていた。こんな汚い声がヤマトの耳にも突き刺さっていると思うと、それだけで気が滅入るというものだ。
 彼には静寂が似合う。静謐な張りつめた空気の中、凛と佇む姿がどんな絵画よりも美しかった。彼に用意するべき舞台は間違ってもこんな動物園じみた場ではないというのに、喧騒は少しも収まる気配を見せない。ちらと伺った傍らのヤマトは、ただ静かにそこに鎮座していた。
 時計の針は深夜三時過ぎを指している。この時間ともなるとさすがに休んでいたのか、昼間は整髪料できっちり整えられているヤマトの黒髪も、今は洗いざらしのまま撫でつけられていた。

「ええい、これは何事だ! 一体どう責任を取るつもりだ、ムサシ司令!」
「王族専用艦が出ただと!? あの小娘はどうした、見張っていたのではないのか!」

 ここに集まるなりすぐにその答えは説明したというのに、彼らは飽きずに何度も同じことを問うてくる。うんざりするとしか言いようがなかったが、彼らは揃いも揃って原稿がなければ議会で質疑応答もままならない男達だ。これも仕方ないのだろうと、ムサシは気づかれない程度に鼻先で一蹴した。
 頭から湯気を立ち昇らせんばかりの勢いで食ってかかる高官達には、今や机も椅子も意味をなさなかった。誰もが我先にとムサシへ詰め寄り、長机を押しのけて胸倉や肩を掴んでくる。見た目が小柄な分――そしてなにより女性のようなので――、力に訴えればどうにかなるとでも思っているのだろう。
 枯れた指先が、深緑の軍服に皺を刻む。それは素肌をなぞられるよりも不快な感触だった。

「でーすーかーら! 先ほどもご説明しました通り、空渡艦を奪取したのはヒュウガ隊並びにイセ隊のソウヤ一尉です。空渡観察室にいたのは開発部の一曹で、このヴェルデ基地内においてマミヤ士長が緑場の操作を行ったという事実はありません」
「しかし、王族専用艦の起動コードなんぞ、一般の隊員が知る由もないものだ! あの小娘が関与しているのは明白だろうが!」
「その点については現在調査中です。直接関係者から話を聞かねばなりません。そしてそのマミヤ士長ですが、きちんと“入院”という形でこのヴェルデ基地からは遠ざけています」
「ちゃんと見張っていたのか!? 処置が甘かったのだ、地下室にでも入れておけばよかったものを!」

 そうだそうだと野次が飛ぶ。王族であるマミヤを非難する声に、年頃の若い娘の人権を考慮する色など含まれない。まるで彼女を家畜かなにかと思っているのではなかろうか。そんな風に思うほど、彼らの言葉には容赦がなかった。
 見張りをつけて繋いでおけばよかったのだと誰かが言うと、それに被さるように下品な笑声があちこちで上がった。聞くに堪えない卑猥な冗談が飛び交い、彼女の尊厳を貶める。王族の持つ権威など彼らにとっては塵芥に等しいのだと、計らずしもよく分かる会話だった。
 冷ややかな眼差しでその光景を眺めていると、緑花院議長が他の議員を押しのけ、ずっ、と前に出てきた。数年前から膝を悪くしている彼は、琥珀だか鼈甲だかの趣味の悪い杖をこれ見よがしについている。

「これはお前達の責任だぞ。この計画が失敗したらどうしてくれるつもりだ」
「さて、どうしましょうかねぇ」
「ふざけるなっ!!」



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