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「おれ達はいつの間にか身柄拘束されてたしねー。っと、拘束って言っちゃいけないんだったかな。アレなんて言うんでしたっけ、艦長」
「ムサシ司令の言葉を借りるなら、『悪戯するいけない子には、連帯責任でお仕置きです!』だな。別のえらいさんの言葉を借りるなら、集中力向上うんたらかんたらっつートレーニングの一環だ」

 白を宿した基地司令の無垢な笑顔が――実際は無垢どころかその真逆に位置しているものだが――脳裏に易々と浮かび、ナガトは思わず呻いた。後者の理由も訳が分からない。だが、自分達のしたことで彼らを不自由させたことだけは確かだ。羞恥に俯きたくなるのをぐっと堪え、ナガトは青い瞳を見据えた。
 ヒュウガとスズヤの会話が終わるのを待ち、ソウヤが続ける。

「事情を知ったのはイセ隊が帰還してからだったが、そんときにちっとお姫さんに声かけられてな。聞いてみりゃ物騒な話がポンポン出てくるし、調べてみりゃ案の定妙なことになってる。イセ艦長直々に動くなって言われる事態だ、ただ事じゃねぇのは分かんだろ」
「なにが起きてるって言うんです……?」
「“緑のゆりかご”だとよ」

 はっとして目を瞠ったナガトの袖を、奏が軽く引いてきた。「緑のゆりかご?」無声音で問うてきたのは、話を遮らないようにという配慮だろう。

「おれもそんな馬鹿げたことあるはずないって思ってたんだけどねー。この現状を見れば飲み込まないわけにはいかない」
「俺もだ。このお姫さんはなに言ってんだって思ってたがな。だがま、どうやら緑のゆりかご計画の主役はお前らだ、ナガト」
「は……?」
「お前ら二人をヒーローだかなんだかに仕立て上げて、この国ごと核を焼いちまおうって作戦らしい。そうまでして消したいものがあんだとよ。分かるか? ――最初の核は、欠片プレートから故意に運ばれたモンだった」
「えっ、ちょっとなにそれ、どういうことなん!? 故意にって、そんな、わざとこんなことしたっていうん!? しかもこの国ごと焼くってどういうこと!?」

 いきなり腰を浮かせて声を荒げた奏に、ヒュウガ達が軽く目を見開いた。「元気な子だね〜」喉の奥で笑ったスズヤに、奏がきつい視線を投げる。この様子では、奏とスズヤが仲良くするのは難しそうだ。
 一方、ナガトの頭も混乱でいっぱいだった。白の植物の核を故意に他プレートへ運ぶなど、そんなことが許されるはずがない。あってはならないことだ。
 目的はなんだ。侵略か。だとすればなぜ、特殊飛行部がこのプレートへ全隊出動しているのだろう。
 侵略が目的でないとすれば、いったいなにが狙いだというのか。

「お前が怒るのももっともだと思うがな、少し抑えて聞いててくれるか。なにしろ時間が惜しい」

 奏にそう告げるソウヤの声は、いっそ残酷なまでに冷静だった。一切の揺らぎを見せない様子に、いきり立っていた奏もなにかを誤魔化すように細く息を吐いて大人しく着席する。もうその瞳に熱はなく、説明を求める頑なな瞳でソウヤを見据えていた。
 ――きみは本当に、変わってる。
 いつぞや吐き出したのと同じ台詞を、ナガトは改めて胸中で零した。“緑のゆりかご”がなにかも知らないのに、不必要に口は挟まず現状を理解しようとしている。
 この子の強さはどこから湧いてくるのだろう。腰を据えてソウヤの話に耳を傾ける奏を横目に見ながら、そんなことを思う。


 そこからソウヤが語った話は、とても一息に飲み込めるようなものではなかった。
 このプレートを利用した“緑のゆりかご計画”の概要。それを知るきっかけとなったマミヤとのやりとり。イブキの親族が知り得た研究所の実態。――そして、自分達が置かれている立場。
 ナガトとアカギ、そしてハインケルとミーティアを駒とし、このプレートを盤とした壮大な計画だ。それを欠片プレートの二大大国が計画して行っているというのだから、信じろという方が無茶だった。しかも駒の一つに自分が選ばれているだなんて、どうにも実感が湧いてこない。
 ヤマトの顔とムサシの顔が、同時に浮かんで消えていく。信頼していたのに。所詮はただの駒でしかなかったというのだろうか。入隊時、テールベルト空軍に相応しい存在であれと声をかけられた。これが、その在り方だというのだろうか。
 皮肉な話だ。
 彼らによって用意された役割が、「そんなものとは程遠い」と言われ続けた正義の味方(ヒーロー)だなんて。

「調べていくうちに、お前らを利用する計画だって分かった。お姫さんに連絡取ろうとしたら、これがまた上手い具合に邪魔されててなぁ。気がつきゃ存在隠されてたっつーわけだ」



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