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「ちょっとどうしたのよ。あんたそんなキャラだった? ぷるぷる震えるだけが取り柄の子羊ハインケルには、ぜーんぜん似合わない! 気持ちわっるーい」
「ドルニエ、お願いだ。ミーティアさんは関係ない」
「だぁめ。だって、あんた達は選ばれたんだもの」
「……分かってるよ」

 「選ばれた」という、その言葉に戦慄する。
 記憶が戻る前のハインケルも、自らの口でそう言った。
 英雄の国の出であるミーティアと、テールベルトの鬼門であるハインケル。
 誰もが気づくはずの植物の変化が報告されなかった理由。
 ここまでお膳立てされていれば、結論を導き出すのは容易かった。手繰り寄せた真実がたとえ信じがたいものだとしても、どれほど棘を持っていたとしても、この手で触れなければならないものだった。

「僕らを首謀者として、この国の緑を奪う――それがテールベルトの決定なんでしょう」

 三国一の実績を誇るハインケルになら、それすら可能だ。気狂いの科学者とすら呼ばれているハインケルがどんな暴走をしたところで、もっともらしい理由さえつければ、「あの男ならやりかねない」と周囲は納得するだろう。事実だろうがそうでなかろうが、ハインケルの悪い噂はあちこちに溢れている。ミーティアが派遣されたのだって、第二の「緑のゆりかご計画」となればビリジアンの人間が加わるのもおかしくはない。
 白色化しないブラン結合。ブランは記憶装置だ。白の植物が蔓延したプレートでは、天然の緑であってもブラン結合を引き起こせば白に変わってしまう。
 だが、このプレートではそうはならなかった。
 それは容易に思いつく、逆転の発想だった。天然の緑の植物と白の植物をブラン結合させ、無毒の緑を“記憶”させる。白色化しないまま、ブランはどんどんと引き継がれていく。緑を記憶したブランが白の植物と結合すると、稀に有害物質を打ち消すことがハインケルの実験でも明らかになっていた。
 だが、その現象は実に稀だ。安定させることもできなければ、ワクチンを生み出すこともできない。どうしてそうなるのか、原因さえまだ掴めていない。
 それでも、上は決行したのだ。美しい色彩を放つ、緑を求めて。
 そうして引き継いだ緑の植物は、あのプレートにとって本当の希望となりうるのだろうか。

「ブラン結合のためには、このプレートに白の脅威が襲う。このプレートの緑が死ぬ。それを分かっていて、上はこの計画を通したの?」
「プレートナンバー3840-C。ここはそれなりに発展してて自然も残ってる。人も多くて空気も無害。だ・け・どっ、最近プレート外に接近しようとしてきて煩わしいったらないのよね〜。でも環境は文句なしだし? 実験するにはもってこいの場所じゃない? あんただってここに来たとき、ゾクゾクしたでしょ? このプレートの緑を見て、そうじゃないだなんて言わせやしない」

 確かに歓喜した。植物が育つのに必要な条件をすべて満たし、テールベルトとそう変わらない建物が並ぶこのプレートで、大地に根を張るのは青々とした緑だ。
 誰も広がる枝葉が緑であることを不思議に思わない。植物と言えば緑だと、誰もがそう迷いなく答えるこのプレートに降り立ったあのとき、興奮と羨望を抱いた。
 ドルニエは意識のないミーティアの足先を軽く蹴って、煽るようにハインケルを見上げた。

「大体当たってるけど、でもあんた、一つ間違ってる。“緑のゆりかご”は、このプレートから緑を奪うためだけのものじゃない」
「え……?」
「言ったでしょ? 『ぜーんぶ焼いちゃう』って」
「焼くって、まさか……」
「そのとーり。知らないなら教えてあげる。ナンバー3840-Cのプレートの緑をブラン結合によって持ち帰り、同時に蔓延した白の植物の核を一ヶ所に集めて一思いに焼いちゃうの。そうするとあーら不思議、このプレートから白の核は消え、脅威も去る。問題解決と証拠隠滅ができて一石二鳥ってやつね」

 馬鹿な。思わず言葉が唇を割って出た。
 このプレートで白の植物がどれほどの進化を遂げているか、ドルニエが知らないわけがない。これだけの核を焼却するとなれば、範囲は膨大だ。どれほどの被害を生み出すか、考えるだけで恐ろしい。
 そんな非人道的な真似が許されるはずがなかった。万が一本国で同様のことを行えば、国内はもちろんたちまち諸外国から猛烈に糾弾され、下手をすれば制裁を受ける。

「そんな、そんなこと、したら。……この国が、壊れる」
「知ったこっちゃないわよ。どーせこのプレートの人間は、プレートを渡るなんてできっこないんだし。世紀の極悪人だって叩かれるのは、あたしじゃなくてあんた達なんだしー? そーれーにっ」


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