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「前から気になっとったんやけど、ハルナって誰? 二尉ってのは階級やんな。女の人?」
「え? ああいや、違う違う。ハルナ二尉はれっきとした男性軍人です。確かに名前はかわいいけどね」
「そうなんや? てっきり女の人かと……」
「いやいやいやいや。確かに女子力高いけど、女らしさとは真逆の位置にいる人だから」
「女子力高いのに女らしさとは真逆? なにそれ」
「まあそれはいいとして。ハルナ二尉は我がテールベルト空軍が誇るエースパイロットでさ、陸戦空戦、どちらも得意。キャラクター性もあいまって、空軍のアイドルってやつかな。――あ、でも入った頃、名前で油断して泣き見てた奴もいたよな、確か」
「ああ、いたいた!! 酔って絡んで足腰立たなくなるまで投げられた奴とか!」

 手を叩いてナガトが笑い、昔見たのであろう光景に二人して思い出話に花を咲かせている。こうなってしまってはもう、奏は口を挟めない。なんだかんだで仲のいい二人は、奏のことなどそっちのけで話を弾ませていた。
 笑ったり怒鳴ったりと忙しい会話を聞きながら、モニターと再び向き直ってみた。海外の個人サイトでは、軽くモザイクがかけられた程度のグロテスクな感染者の写真が普通に掲載されている。拙い英語力で読み解くに、それは植物との合成獣(キメラ)のようだと評しているサイトもあった。
 日本でこんなことになれば、ナガトが言ったように途端にパニックになるのだろう。なにしろ対処法がこの地球上にはない。ナガト達が再三呼びかけている応援が来なければ、大量の感染者と対峙できるのはたった二人しかいないことになる。
 そこで、はたと新たな疑問が生まれた。頭上でいつの間にか舌戦に変わっていた二人のやりとりに、無理矢理声を捻じ込む。

「なあ。なあって! 聞きたいことあるんやけど。そういえば、あんたらなんで空軍なん? だって白の植物も感染者も、みんな陸上のもんやん。なんで陸軍じゃないん?」

 ぱちくりと目をしばたたかせたナガトが、少し考えるように唇に拳を当てた。そんな仕草が似合うのだから少し腹が立つ。異世界がどうこうと言われて、そちらの方に気を取られていたせいで疑問に思う余裕もなかったが、よく考えてみれば不思議だ。
 感染者の駆除と言っても、元は人間なのだから地上戦になるだろう。空軍よりも陸軍の方が向いているのではないだろうか。

「んー……、いろいろあるんだけど、どう言えば一番分かりやすいかな……。とりあえず、俺ら特殊飛行部ってのはプレートを渡る――つまり、飛ぶわけ。今みたいに、白の植物が他プレートを脅かすこともあるからね。そのとき、空渡できるのは特殊飛行部しかいない。それが一番の理由かな。陸軍もあるけど、そっちは国内専用。緑地警備隊が他プレートに渡るときは、うちの空渡艦で派遣されるし」
「へー……。でも、それは分かるけど、そんじゃ国内は? 陸軍が国内専用なんやったら、あんたらは国内でなにしてんの? だって空渡艦って、潜水艦とかそんな感じやん。でもあんたらはパイロットなんやろ?」
「特殊飛行部も国内任務に就くよ。通常はそっちの方が多いしね。空渡艦に乗るのはプレート渡るときだけ。国内では戦闘機に乗ったり、あとはまあ、白兵戦かな」

 あっさりと言われたが、ミリタリー関係の話に強くない奏の頭では瞬時に処理しきれるものでもない。

「感染者とか植物相手に戦闘機? あ、それとも、こっちで言う戦闘機とそっちのは違うん?」
「いんや。自動的に俺達の言葉や概念はこのプレートに近づけられてっから、“戦闘機”が理解できんならこっちにある戦闘機とそう変わんねェよ」
「へ……?」

 アカギがなんでもない風に言ったが、奏にはすぐに意味が飲み下せない。戦闘機が理解できるなら、こっちにある戦闘機と変わらない、とはどういうことだ。
 頭上にクエスチョンマークを浮かべる奏に二人は顔を見合わせ、アカギが耳につけた小さなインカムのようなものをいじくった。

「あのね、奏。今、俺の言葉は理解できるよね?」
「うん。それが?」
「それじゃ、ええと……、これ、なんて言う?」
「は? ホッチキス?」

 卓上にあったホッチキスを手に、ナガトが満足そうに頷く。「そう、ホッチキス」まるで幼稚園児に言葉を教えるようなそれに、ますます意味が分からなくなる。
 眉間にしわを寄せた奏をさらに追い詰めたのは、今まで聞いたこともない音の響きだった。

「え、ちょ、なんて?」
「――」
「は? なに、え、もう一回!」
「――」


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