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『非白色化植物でブラン結合、か。アメリカではまだ見られていないが、念のため重点的に調べさせる。それよりも、こっちはむしろ白色化したやつの方が問題だ。都心じゃそう目立たないが、田舎の方では銃殺だのなんだの物騒になってきてるぞ』
「そんなに進んでいますか?」
『ああ、最悪だ。俺達が処理しようと思っても、感染者の数が急激に増加して追いつかない。昨日、レベルDが出てどうするか上と掛け合ってるところだ』

 レベルD。背後でハインケルが小さく息を呑んだ。ミーティアも険しい顔をしている。

『レベルDともなれば、完全隔離するか殺すしか方法はないからな。こっちでの殺処分はできる限り避けたい。――とはいえ、このプレートの人間をうちに連れて帰って隔離施設へ放り込むわけにもいくまい』
「白色化はどのくらい進んでおられるのかしら」
『――誰だ?』

 モニターのハルナが目を眇めた。端末のカメラが写す範囲は狭いので、それまでミーティアの姿は向こうに見えていなかったらしい。彼女はナガトのすぐ隣に立つと、モニター越しにキスを投げた。

「初めまして。ビリジアン政府直轄、白植物科学捜査研究室室長のミーティアよ。よろしくね、ハルナさん」
『……ああ、お前か。話は聞いている。ハインケル博士の補佐を命じられてわざわざやってきたとか。ご苦労なことだな』
「博士の研究はとても興味深いですもの。苦労なんてしてないわ。それより、白色化はどの程度――」
『俺が通信しているのはそこの三等空尉だ。邪魔をしないでくれるか』
「……それは失礼」

 軽く手を挙げてミーティアが下がる。

『本部もかなりざわついているようだ。そのうち指令が下ると思うが……、それまで動きづらいのが厄介だな。緊急応援も要請したが、いつになるか分からん。お前達も気をつけろよ』
「緊急応援って、そっちそんなにひどいんすか!?」
『だから言っただろう。最悪だ、とな。こっちの政府も調査に乗り出し始めているから、近いうちにお前達の地域にも現状が知れ渡るだろう。上としても想定外の早さらしいな』
「……プレート間交渉もありうるってことですよね」
『俺の口からどうこう言える問題じゃない。だが、可能性は高いだろうな。――ああそうだナガト、スズヤはいるか』
「え、っと……」

 ハルナとスズヤは同期だ。かつては同室だったこともあり、二人の仲がよいことは誰もが知っている。ここでスズヤはどうしたと訊ねられるのは不自然ではない。
 口ごもるナガトに、ハルナはきょとんと目を丸くさせている。視線を移されたアカギが大げさなまでに顔を背けたのを見て、ハルナのこめかみにミミズが這った。

『……お前達、なにしでかした?』
「や、あの、大したことじゃ……」
「そうそう、大したことじゃないんです。ただ、ちょっと……その、ここには俺らしかいないだけで……」

 低く問い詰められ、ナガトとアカギは交代で洗いざらい吐かされるはめになった。すべてを話し終えてモニターを見ると、ハルナは小刻みに肩を震わせて俯いていた。
 ここはほら、漫画とかなら爆笑して「よくやったな、お前達」とかそういう展開だよね。希望的観測でハルナを見つめ、随分と長く感じた数秒の間の後――鼓膜を震わせる恫喝がスピーカーを響かせた。

『このド阿呆がっ! 貴様らなにを考えている! 大きな問題になっていないということがどういう意味か、分かっているのか!? どれだけお前達の艦長が頭下げたと思ってる! 正義の味方気取りもいい加減にしろっ! すぐにメンツなんざ構ってられなくなる! 二人でどうこうできる問題じゃない、とっとと応援呼べっ!!』

 早口で捲くし立てるハルナの言葉はほとんどが反論の余地など髪一筋ほどもないほどその通りで、二人の軍人はしゅんと肩を落として身を寄せ合い説教を受けるより他に術はなかった。もしもこれが直接顔を合わせていたら、確実に頬が腫れ上がっている。


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