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「おれもそんな馬鹿げたことあるはずないって思ってたんだけどねー。現状を見れば飲み込まないわけにはいかない」
「いわく、緑のゆりかご計画の主役はお前らだ、ナガト」
「は?」
「お前ら二人をヒーローだかなんだかに仕立て上げて、この国ごと核を焼いちまおうって作戦らしい。そうまでして消したいものがあんだとよ。分かるか? 最初の核は、欠片プレートから故意に運ばれたモンだった」
「えっ、ちょっとなにそれ、どういうことなん!? 故意にって、そんな、わざとこんなことしたっていうん!? しかもこの国ごと焼くってどういうこと!?」

 いきなり腰を浮かせて声を荒げた奏に、ヒュウガ達が軽く目を見開いた。「元気な子だね〜」喉の奥で笑ったスズヤに、奏がきつい視線を投げる。
 一方、ナガトの頭も混乱でいっぱいだった。白の植物の核を故意に他プレートへ運ぶなど、そんなことが許されるはずがない。あってはならないことだ。目的はなんだ。侵略か。だとすればなぜ、特殊飛行部がこのプレートへ全隊出動しているのだろう。
 侵略が目的でないとすれば、いったいなにが狙いだというのか。

「お前が怒るのももっともだと思うがな、少し抑えて聞いててくれるか。なにしろ時間が惜しい」

 ソウヤの声は残酷なまでに冷静だった。一切の揺らぎを見せない様子に、いきり立っていた奏もなにかを誤魔化すように細く息を吐いて大人しく着席する。もうその瞳に熱はなく、説明を求める頑なな瞳でソウヤを見据えていた。
 ――きみは本当に、変わってる。
 いつぞや吐き出したのと同じ台詞を、ナガトは改めて胸中で零した。この子の強さはどこから湧いてくるのだろう。腰を据えてソウヤの話に耳を傾ける奏を横目に見ながら、そんなことを思う。


 そこからソウヤが語った話は、とても一息に飲み込めるようなものではなかった。
 このプレートを利用した「緑のゆりかご計画」の概要。それを知るきっかけとなったマミヤとのやりとり。イブキの親族が知り得た研究所の実態。――そして、自分達が置かれている立場。
 ナガトとアカギ、そしてハインケルとミーティアを駒とし、このプレートを盤とした壮大な計画だ。それを欠片プレートの二大大国が計画して行っているというのだから、信じろという方が無茶だった。しかも駒の一つに自分が選ばれているだなんて、どうにも実感が湧いてこない。
 ヤマトの顔とムサシの顔が、同時に浮かんで消えていく。信頼していたのに。所詮はただの駒でしかなかったというのだろうか。テールベルト空軍に相応しい存在であれと声をかけられた。これが、その在り方だというのだろうか。
 皮肉な話だ。
 彼らによって用意された役割が、「そんなものとは程遠い」と言われ続けた正義の味方(ヒーロー)だなんて。

「調べていくうちに、お前らを利用する計画だって分かった。お姫さんに連絡取ろうとしたら、これがまた上手い具合に邪魔されててなぁ。気がつきゃ存在隠されてたっつーわけだ」

 途中からマミヤは姿を消したのだという。ソウヤいわく、「首を突っ込みすぎたんだろ」とのことだった。この計画に王族は関わっていない。国の頂点に座すのは緑王であるにもかかわらず、ただの象徴として見る体制は昔からあった。ナガトとて、緑王自らが国を動かしているとは思っていない。
 ただのお飾りならば必要ないだろう――そう考える者達が動いた計画だとすれば、王族であるマミヤに嗅ぎ回られることは煩わしかったに違いない。
 マミヤは無事なのだろうか。そんなナガトの疑問を汲み取ったように、ソウヤが軽く頷いた。

「心配すんな、さすがに直系のお姫さんをどうこうするような馬鹿はいねぇだろ。それより問題児はお姫さんの方だ。自分がこうなること予想してたらしいが、よりにもよってあの人を連絡役に寄越すなんざ……」
「え、誰ですか?」
「緑王陛下だと。俺も聞いたときは、ついにソウヤの頭がおかしくなったのかと思った」
「ヒュウガ一佐、ついにってどういう意味ですか」

 携帯用のタブレット端末で各隊員に指示を飛ばしつつ、ヒュウガがそんなことを言う。
 もうさっきから驚き通しで、これ以上どう驚けばいいのか分からなくなってきていた。
 たかだか一軍人に、緑王自らが連絡を寄越した? こんな状況でなければ、それこそ大法螺だと判断していたに違いない話だ。

「事前に俺の個人コード教えてたんだろうな。陛下御自らのコールだ、さすがに目ぇ剥いたぞ。しかも淡々とパスコードだけ伝えて切られたとあっちゃ、夢かとも思ったがな。覚めない辺りそうでもないらしい。イブキに頼んでお姫さんの端末からアクセスして、この艦の発艦準備したってわけだ。さすがに俺一人じゃどうにもできねぇから、ヒュウガ隊を巻き込ませてもらったが」
「馬鹿たれ。元はと言えばヒュウガ隊の任務だ。俺が出んと話にならねぇよ。カッコつけんな、若造が」

 吐き捨てるようにヒュウガが言い、ソウヤが苦笑気味に肩を竦めた。

「でも、ソウヤ一尉、本当にそれだけでこっちに来たっていうんですか? だって、こんな……」

 いくら王族が絡んでいるとはいえ、ここまでの勝手をしては除隊は免れないだろう。下手をすれば反逆、テロと見られても文句は言えない。
 ソウヤはテールベルト空軍の中でも、五本の指に入る優秀なパイロットだ。冷静な判断力、圧倒的な空戦技術。人を惹きつける能力にも長けているし、それになにより彼は緑防大出だ。エリートコースを歩んでいる人間にとって、こんなことは致命傷にしかなりえない。
 それなのに彼は、どうしてここに来たのだろう。
 小さく笑ってポケットからなにかを取り出したソウヤは、ナガト達に向かってそれを机の上に滑らせた。やってきたのは小さなバッヂ――階級章だ。ナガトの軍服の襟にもついているが、デザインが異なる。
 芽吹いた若葉を意味する「V」の形が三つ重なったデザインのそれは、ソウヤの階級を示すものでもない。
 これは士長の階級を表すものだ。一尉のソウヤが持っているはずもない徽章から、強い決意のようなものが伝わってきた気がして、ぞくりと冷たいものが指先から駆けていく。


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