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そして、欠片は飛来する *2
hi 蜂型結晶、全国に
残暑続く八月、全国各地でさまざまな形の白い結晶の発見が報告されている。中には切り株そのままの形の結晶や、リスのような結晶も見つかっており、新鉱物の解明を急いでいる。
京都府京丹後市では……――
――20XX年8月某日 ○×新聞
* * *
「いったたた……。お前さ、もうちょっとまともに降ろせないわけ? もう最悪。へったくそ」
「うるっせー。防御姿勢取れっつったろバカ。へらへらしてっからだバカ」
「おんなじ暴言しか言えないとか低脳の証拠だよ、お前。ちょっとは勉強しろバーカ」
「おっまえも変わんねェだろうが根性悪!!」
ああもう、うるさい。
口の悪い同僚の腹を一発殴って黙らせる。――つもりだったが、途中でかわされて余計にうるさくなった。狭い艦の中では音が反響しやすいせいで、耳から侵入した騒音が容赦なく頭を揺さぶってくる。地声の大きなこの男と一緒に乗ると、大抵こんな目に遭うから嫌だ。
出来はともかく、レーダーを見る限りは無事に目標地点へ着けたらしい。反応を示す点が大きく光っている。
「計器の異常もないし、気圧もいい感じかな。酸素濃度も問題なし。そっちは?」
「破損警告はなし。中の問題はないな。この調子じゃ外も平気だろ。補修の心配はいらねェっぽい」
一つ一つスイッチを確認していく無骨な指は、それでいてとても丁寧に点検を進めていく。
丁寧な確認は基本中の基本だが、どうにも似合わず笑いそうになった。
「そんじゃ、行きますか」
伸びをしながら言ったものだから、案の定「気ィ引き締めろバカ!」と怒鳴られた。
* * *
一介のサラリーマンがローンを組んで買った庭付き一戸建ての広さなど、たかが知れている。
狭くはないが、決して広くもないその庭に、なにかが存在しているのは間違いなかった。母が趣味を凝らしたガーデニングの花壇の上に、黒っぽい大きな固まりがどんと乗っている。街灯に照らされてぼんやり見えるそのシルエットは、とても不気味だ。
なぜ、こんなところにあんなものが。
――どうすればいい? 警察? 市役所? どこに相談するのが正しいのだろう。
心臓がけたたましく鳴り響いている。どうしよう。もしかして隕石かなにかだろうか。なら、どうすれば。いつものどうしよう病が始まったことを、穂香は頭の片隅で自覚していた。どうしようをやめるには、どうしよう。
カーテンに手をかけたまま、ベッドに座り込んでじっと謎の物体を見つめ続ける。どうしよう。どうすれば。
――そう思っていたのも、その瞬間までが限界だった。
「――ッ!」
開いた。
音もなく――本当はしたのかもしれないが、穂香の部屋は二階だ――、物体の一部がぱかりと開いた。丸く切り取られたような蓋、そして穴。
穴から人らしき頭が覗いたところで、穂香は声にならない悲鳴を上げて奏の部屋に転ぶように飛び込んだ。
「うわわっ、なになに、どうしたん!? ほの? どうし――」
「まっ、窓! 下! 庭! ひと!」
「は? へ? ちょっ、落ち着いて! 窓の下?」
全力疾走したわけでもないのに大きく肩が上下し、肺が悲鳴を上げている。訳も分からない恐怖で滲んできた涙を拭って、庭を覗こうとする奏の服をぎゅっと掴んだ。
「……なにあれ。ほの、ちょっとここおり。父さんトコ行って警察呼んでくるから。いい? 見つからんよう、隠れとくんやで」
「でもっ……!」
「だーいじょうぶ。直接見に行くわけちゃうから。父さんあれでも段持ちやで? ただの泥棒程度やったらあたしと父さんでしばいたるから」
「警察来るまでは、もたしたるから」だから大丈夫。そう言って、部屋の片隅にあったテニスラケットを武器代わりにし、奏は足音を殺して部屋を飛び出してしまった。
今日は家の中を走り回らせてかりだ。――いつだって、そう。
頼りっぱなしじゃいけない。怖いのは奏だって一緒だろうに。それでも、彼女は走る。一歩も二歩も先に進んで穂香の安全を確かめ、大丈夫だよと手を伸ばしてくる。
情けない。私は弱いから仕方がないと、日和っている自分がやるせない。
ぐっと奥歯を噛みしめて、穂香は恐怖で動かなくなった身体をできる限り小さくさせた。頭を抱えて耳をふさぐ。
そうでもしないと、恐ろしい怒号と悲鳴が今にも聞こえてきそうだったから。