▼ちいさな恋のおわり

※現パロ

簡潔に言えば、出会うのが遅かった。
その一言に尽きる。
充実した大学生活に、より一層色を染めたのは、その出会いだった。
出会ったのは大学1回生のとき、アルバイト先だ。
しかしその時は思いもしなかった。
飲食店のホールスタッフとして働くハンジと、キッチンスタッフとして働くリヴァイは、お互い話しをするものの、別段仲がいいことは無い。むしろキッチンとホールという隔たりがある分、アルバイトの入る時間や上がる時間が被らない限り、話すことは無かった。

「ハンジ、今度出かけねえか」
「え!」
「嫌ならいい」
「いや、そんなんじゃないよ!出かけよう」

リヴァイがハンジを初めて誘ったのは、4回生の夏のことだった。
ハンジは驚いたものの、純粋に誘われたことに嬉しさを覚え、その誘いに応じた。
2人はいわゆるデートというやつをした。
ハンジの要望で海遊館に行く。
リヴァイの少し高そうな黒の車に乗った。
2人でゆっくり話すのは初めてであったが、元々よく喋るので会話は尽きない。
ハンジにはとても充実した時間だった。
彼女の大好きな大学の研究よりも。
その後も何度か2人は出かけた。
夕食だけ2人で行く。
リヴァイの家にも2度行った。
手を繋ぐとか、キスをするとかなくて、ただ彼の綺麗な部屋のソファに座って映画を見て話をして、と穏やかな時間を過ごす。
日付が変わる前には必ず家まで送ってくれる紳士的なところもある。
2人は互いに好きあっていた。
ハンジはもちろん。リヴァイもだ。
しかしお互い想いを伝えるような行為も、友人という枠組みから1歩出ようという行動もしなかった。
2人の仲が親密になる前から、2人の就職先は決まっていたからだ。ハンジは地元の製薬会社で研究員として内定をもらっているがリヴァイはもっと遠い、県を超えてそれこそ新幹線で2、3時間近くかかるような都心部のIT企業での内定をもらっていたからだ。
必ず、別れが来ると分かっているから、2人はそれ以上歩み寄らなかった。

「リヴァイはずっと向こうにいるの?」
「ああ。20代の間はずっと向こうだ。そのあとは多分戻ってくる。」

リヴァイが20代の間の8年間を、ハンジは待てるとは思わなかった。
リヴァイも、待ってもらえるとも思わなかった。
何より離れていて、会う時間も、連絡を取る時間もままならなくなるのが明白な状況で、気持ちが続くとは思わなかった。

「もう、あと1週間で引越しかあ」
「会うのは今日で最後だな」

リヴァイが引越す1週間前、2人はリヴァイの車で何をするわけでもなく、話をしていた。

「寂しくなるなあ」
「時々帰ってくるがな」
「その時は連絡してくれよ」
「ああ」

その約束が果たされることはきっとないだろうな、とハンジは思った。
ハンジは遠距離恋愛を続けられる自信もなかったし、お互い新しい環境で新しい出会いがある。
自分よりも魅力的な人などごまんといるだろう。
その時、お互いが邪魔な存在になるのは嫌だった。
自分もリヴァイが足枷になるのが、リヴァイも自分が足枷になるのが、ハンジは耐えられなかった。

「それ、ビビってるだけだろ」

と言う者もいた。
もちろんそうだ。ハンジはビビっている。
ビビって何が悪いと、思った。
きっとお互いのためにはならない、と、背伸びをしたふりをして、大人になった振りをして、彼女はリヴァイを諦めるのだ。

最後に会った車の中でも、特にこれといったこともなく、最後に別れを告げてハンジは車を降りた。
とても虚しいと感じていた。
最後に、友人としてハグくらいすればよかったと、後悔もした。
家にまで行ったのに、何も手を出してこないリヴァイに周りは、ハンジに魅力ないからじゃない、と言った。
もちろんその通りだと思った。
なんせ自分は男並に背が高く、胸もないし少し骨張った体型で、髪の毛を短くしたら殆ど男と変わらない。
軽おじて髪型と、薄らとした化粧だけが、彼女を女に見せている。

「大事にされてたんだよ」

と、ハンジの親友のナナバが言ってくれた時、彼女は少し泣きそうになった。
きっとリヴァイにはもう二度と会えないんだろうな。
と、固く閉ざされていた彼女の乙女心を開いたリヴァイの顔を思い出して、ハンジは溢れそうになる涙をギュッと堪えた。





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