▼窈窕

※単行本ネタバレあり
※R-18

たくさんの仲間が死んだ。
ハンジは、笑わなくなった。
ミケが死に、ナナバ、リーネ、二ファ、ゲルガー、モブリット、そしてエルヴィン。
俺達が長年力と、頭脳と、全てを捧げて、考えて、守ってきた仲間がみんな死んでしまった。
残ったのは入団して間もない新兵数人と、俺とハンジ。
ハンジは分隊長から団長になり、僅かしか残っていない調査兵団を率いることになった。
世界の真実の断片を知り、今まで散々殺してきた巨人が、憎かった巨人が、同じ人間だったなんて。
誰よりも熱心に巨人の生態を調べていたハンジは、誰よりもショックだっただろう。
シガンシナの壁を何とか塞ぎ、ウォールマリアを取り戻し、人々はやっとこさウォールマリアに帰ることが出来た。
人類は、束の間の休息に入ったように感じた。

「ハンジ」

ハンジは机に突っ伏して寝ていた。
壁が破壊される前の頃のハンジと、寝方はまるで変わらないのに。
その背中は随分変わってしまったように感じた。
昔よりも随分小さく見えた。
こんな事態だ。いつ何時また敵が襲ってくるかわからねえ状況ではある。
ケラケラと笑っている方が可笑しいかもしれない。
しかしハンジはそんな奴だったはずだ。
どんな時でも笑顔で、深刻に考えるのが馬鹿らしくなるような、周りを照らす太陽みたいな奴だった。
太陽はすっかり雲に隠れてしまったかのように、ハンジの表情は日に日に疲労と、恐怖と、焦燥、重圧に侵されている。
ハンジの机の横にはベッドが置いてあった。
俺はそのベッドに腰を下ろして、机に肘をついて彼女を見つめた。
寝顔すら、安らかな顔には見えない。

「ん、リヴァ、イ…?」
「すまねえ。起こしたか」
「…もう起きるよ」

彼女は顔を上げて、すっかりずり落ちた眼鏡をかけ直した。
俺は彼女に腕を伸ばして、髪に触れた。

「どうしたの?」
「何でもねえ。」

情けないと思った。
俺は、どうしようもなくつまらない人間だった。
こんな時に気を紛らわす程度でいいから、適当な冗談を言って彼女を笑わしてやりたいのに。
かける言葉も、冗談も何も見つからない。

「お前は、笑わなくなったな。」
「そう、いえば。最近、笑ってないかもね…」
「そうだ。笑ってない。」

俺は彼女の頭に腕を回して引き寄せた。
頬や、額や、鼻筋、耳元にキスをした。

「リヴァイ、擽ったいよ」
「どうすれば、お前は笑うんだ?」

ハンジは一瞬、きょとんとしたように目を見開き真ん丸にして、1度瞬きをした。

「ぶっ、あはっはははははっ」

ハンジは、突然椅子の上でお腹を抱えて笑い出した。
どうして笑っているのか、まるで検討もつかない。
だが、彼女が笑っている、という事実に少しだけ安堵した。
彼女はしばらく笑い続けて、お腹痛い、と呟きながら深呼吸を取った。

「リヴァイ」

やっと笑いが収まったハンジは、俺の名前を呼んで俺の顔を包むように両手で頬に触れた。軽いキスを交わす。

「好きだよ。貴方のこと、大好きだ。心の底から愛しているよ」
「…知っている」
「ふふ、貴方は?」
「……嫌いなわけがない」
「ちゃんと言って」
「愛している」

ハンジは満足げに口角を上げて、俺の頬に触れていた手を、そのまま首に回して体重をかけるように俺に凭れ掛かった。
俺は倒されるような形で、ハンジと共に硬いベッドに沈んだ。

「痛ぇ」

俺はシンプルに感じたことを言って彼女の身体に腕を回した。
そのまま、五分くらいだろうか。
俺達は何も言わずに抱き合っていた。
俺は天井を眺めながら、ハンジの背中を撫でた。
彼女は俺の肩に顔を埋めていた。

「ねえ、リヴァイ」

ハンジが徐に話す。

「私ね、酷い人間なんだ。」
「……」
「超大型巨人が降ってきて、突然出現した時。私は死ぬ、と本気で思った。あの熱い蒸気で焼け死ぬんだって。その瞬間、モブリットに押されてたまたまあった井戸の中に落ちたおかげで無事だったんだけどさ。」
「ああ」
「私、その時、何を思ったと思う?目の前で部下が死ぬ瞬間だと言うのに。私、貴方のこと思い出したの。死ぬ前に貴方に会いたい。いや、まだ生きたい。貴方と生きたいって、思ったの。モブリットがいなかったら、死んでたのに。モブリットは私を助けて、目の前で死んだのに」

本当に、酷いやつだよ。とハンジは小さい声で呟いた。俺の服の肩の部分が濡れて、温かく湿っていた。

「ハンジ。顔、上げろ」

ハンジはゆっくりと顔を上げた。
涙でぐちゃぐちゃになっていた。
俺はハンジのまたズレた眼鏡を外して、横に置いた。
彼女を引き寄せてキスをした。
少し、しょっぱいキスだった。
何度も角度を変えて、徐々に深いキスをしていく。
静かな室内の、お互いの吐息だけが耳に入って変な気分になる。
しばらくして口唇を名残惜しそうに離した。

「全部終わったら結婚しよう」
「…何歳になってるんだろうね」
「何歳でも、構わない。」

ハンジは身体を起き上がらせた。
俺も起き上がった。
ハンジのシャツのボタンを一つずつ外した。
彼女は俺の膝の上で、大人しくそれを見ていた。
そのまま下着まで外して、顕になった乳房の突起に吸い付いた。
ピクリ、と反応して彼女は甘い声を漏らす。

「はっ…リヴァイ、」

ハンジは俺の首に腕を回して、俺の髪に顔を埋めて感情を殺すように、いつもより高い声が少しだけ漏れていた。
俺はハンジの乳首を吸ったり、舐めたり、軽く噛んだりしながら、彼女のズボンのボタンとチャックを下ろして、パンツに手を突っ込んで陰部に触れた。彼女のそこはかなり濡れていて、興奮しているのが分かった。俺は乳房から顔を離して、ハンジとまた口唇を重ねた。舌を絡ませて、やらしい音をたてながら彼女の身体をベッドに寝かせてズボンごとパンツを下ろした。
彼女は俺の背中に手を回して必死にキスに応えていた。
長く濃く深く舌を絡ませながら、再び彼女の陰部に直接触れる。久しぶりとはいえすっかり行為を覚えている彼女の身体は案外すんなりと指を受け入れた。

「はぁ、リヴァイっ、も、挿れて」

口唇を離して首筋に吸い付くと、彼女はまた甘い声を漏らした。

「慣らさねえと痛いだろ、もう少し、」
「痛くしてよ。ね、リヴァイ。もう、待てないの。貴方で、満たして。私を何も考えられなくして。貴方でいっぱいにして」

彼女が俺に腕を伸ばしながら、泣きそうな顔で、懇願するように切ない表情をするから、俺は思わず唾を飲んだ。

「ハンジ、」

俺はすぐにズボンを下ろして陰茎を取り出して、彼女の中に挿れた。
避妊具をつけている余裕もなかった。

「ハンジ、ハンジ、」

何度も彼女の名前を呼んで、まるで動物のように必死で腰を動かした。
堪えるように彼女は小さく、声を漏らしていた。
時々、彼女の口唇や、乳房に吸い付きながら、何度も名前を呼んだ。

「リヴァイ、リヴァイ」

ハンジも俺の名前を何度も呼びながら俺の背中に爪を立てていた。
彼女が達して、俺もそのまま彼女の膣の中に射精した。
何時もより、沢山出ている気がした。
全部中に出し切って、お互いまだ息も纏まらないまま、キスをした。

「リヴァイ、」
「ハンジ…」

お互い名前を呼びあって、またキスを交してから、俺は陰茎を抜き取った。
そのとき少しだけ彼女が唸る。

「綺麗だ、ハンジ」
「愛しているよ、リヴァイ」

何だか会話が成り立っていないような気がした。
それでも、よかった。
俺は彼女を抱きしめて、彼女も俺を抱きしめた。
そのまま、疲れきって二人でベッドに入って寝た。
明日になったら、また嫌になるような現実が待っている。
いまの、この瞬間の、ほんの1晩の夢を噛み締めて、俺はハンジを抱きしめた。





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