▼ゲッカビジン


「世界を綺麗だと、思ったのは2回目だ」
「1回目は?」
「初めて壁外に出た時」
「2回目は?」
「お前を見つけた時」

今でも鮮明に、壁を潜り抜け見た広大な青い空を覚えている。
地下の暗い街から、地上に出て、壁外に出た。
何一つ隔たりのない空は、広くどこまでも続き終わりがなかった。
空は俺の心臓を鷲掴み、離さないと言わんばかりだった。

「リヴァイって時々すごく恥ずかしいことを言うよね」

ふふ、と彼女は微笑んだ。
壁の中の丘の上にある木の下に設置された、ベンチに座って遠く壁の外に沈んでゆく夕日を眺めていた。

俺は軽く握っていた彼女の手を、少し強めに握った。

「俺が死ぬ時はきっと、お前が死ぬ時だ」
「愛されてるね、贅沢だなあ、私は」
「そうだ。だから、自分を大切にしろ」
「私なんかの、どこがいいか分かんないけどそう言ってもらえて嬉しいよ」

彼女はそう言って太陽みたいに、くしゃっと笑った。
夕日と被って見えた。
あまりに煌びやかで目が眩んだ。
お前はどこがいいかわからんと言うけれど、その眩しい笑顔が1番綺麗だ。
この世界は残酷だ。だからこそ、美しい。
水や、炎や、大地や、空が美しく映えるように、お前の美しさも際だつ。
洗練されたみずみずしさ。
初めて彼女の笑顔をみたときに、思った。
ああ、俺はこいつと出逢うために生きてきたんだ。
こんな反吐が出そうなほど、理不尽な世の中でたった一つの光を探して俺は生きていたんだ。

「ハンジ、綺麗だ」
「やだなあ、貴方らしくないよ。明日は雨でも降るんじゃない?」

2人っきりの時に見せる、女の顔。
少し照れ臭そうに頬を赤く染めて微笑む姿を見れるのが、俺だけだと思うと、堪らなくなった。





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