▼デンドロビウム

調査兵団の本部の廊下を歩く。
ふと窓の外を見るとリヴァイがいた。

「あ。リヴァイだ」
「なにしてるんでしょうか」
「さぁなんだろう」

私は部下のモブリットを連れて歩いていた。

「ねえモブリット。リヴァイの瞳の色って知ってる?」
「瞳の色、ですか…」
「知らないだろう」
「青とかではなかった気がしますが…」
「目つきの悪さが邪魔してるんだろうね」

リヴァイの瞳の色は灰色だ。
本部の外を歩くリヴァイに目を奪われる。
彼が調査兵団に入ってきたときから、私は目が離せないんだ。
暫く突っ立ってぼうっと彼を眺める。
次第に彼が見えなくなってからモブリットと歩き出した。

「分隊長」
「なに?」
「兵長のことお好きなんですか?」
「うん」
「どういう意味で聞いてるのか分かってらっしゃるのですか?」

後ろを歩くモブリットの声色が少し低くなった。
私は振り返って彼に微笑んだ。

「わかってるさ。もちろん。」

ねえモブリット、貴方はリヴァイの何を知っているの?
リヴァイの気高く美しい様を知らないのだろう
小顔で目つきが悪くてつぶらな瞳。
その小さな灰色の瞳の奥の熱っぽい視線。
私は彼に見つめられただけで、自分の奥底にし舞い込んだ女としての私を引き摺り出されるような錯覚にさえ陥るんだ。
必死に彼のただの同僚のフリをしているのを、君は知らないだろう?

「分隊長、私は」
「モブリット。私はリヴァイが好きだよ。伝える気なんてないけれど。それは手が届かないだとかそういう次元の話じゃないんだ」

これは牽制だった。
私は気づいていた。
モブリットの私を見つめる視線の意味を。
でも応えられない。
私が好きなのはリヴァイだから。


何年か前にリヴァイと出かけたことがあった。
休みの日に。冬のとても寒い日だった。
出かけたと言っても嫌がるリヴァイを無視して無理やりついて行っただけだった。

「どこ?ここ」
「地下だ」

リヴァイはなんだか、怪しげな男に金を払って長い階段を降りた。
なるほど。地上に上がるにも降りるにもこの階段には通行料がかかるらしい。
リヴァイは地上で買った花束を持っていた。
周りの男は笑っていた。滑稽だと。

「ねえ、どこに行くの」
「黙ってついてこい。帰れなくなるぞ」

リヴァイの背中を見失わないように歩いた。
スラム街だと言われるだけある。
あちこちにゴミが落ちていたり、少し路地を覗けば沢山人が転がっているのが見えた。
フラフラに酔っ払ったものや、薬をしているような者もいた。
地上はまだ太陽が上に昇っている時間だというのに。

「あんまりキョロキョロするな」

地下街の外れ。
誰もいない。音も聞こえない。
どこだかもわからない場所。
ただそこは洞窟のように周りが岩に囲まれていて、天井から一筋の光が入る、暗い空間だった。
岩の中にできた空洞にも感じるそこには、入るのも一苦労だった。
とても神秘的だ。

リヴァイはそこの光の当たる1箇所に花束を置いた。

「母さんの墓だ。俺が埋めた。」
「そうなんだ」
「死んだ日にちなんて分からねえから、俺の生まれた日に来ている。」
「今日、貴方の誕生日だったの?」
「そうだ」

そういうことは早く言えよって言いたくなった。
私はリヴァイの置いた花束の前でしゃがんだ。

「リヴァイを産んでくれて、ありがとうございます。」

私がそう言ってリヴァイを見ると、彼は少し照れ臭そうに、でも少し微笑んでいた。
そんな顔、初めて見たよ

「人が1番最初に忘れるのは、声だ。」

リヴァイは私の横にしゃがんで言った。

「私が死んだら、貴方は私の声を真っ先に忘れるってわけだ」
「縁起でもねえこと言うな」

リヴァイはそう言うと私の後頭部に腕を回して引き寄せた。
初めてしたキスの味は、あまり考えてる暇も思い出す暇もなかった。
ただ触れて、離れるだけの可愛いキスをした。
私は、初めて彼の瞳が灰色だと知った。



「さあ、モブリット。はやく研究の続きしないと。二ファたちが待ってる」

にっこり部下に微笑んで、私はそのまま前を向いて歩き出した。
モブリットは何か言いたげな顔をしていたけど、気づいてないフリをした。
あの時は、少し感傷的な気分になっていたんだと思う。だからリヴァイは、私にキスをした。
あれ以来、私の中の彼への興味が恋愛感情に変わった。けれど関係性は変わらない。

でも、私はそれでいい。
きっと彼のことを1番知っているのも、分かっているのも、私だから。
あれ以来彼は母親の墓に行かなくなった。
代わりに私の部屋に来た。
その日だけ、2人っきりで酒を飲んで、1度だけ啄むようなキスをして、そのまま2人で酔い潰れた。
恋人でも、友人にもなりきれない。
しかしその関係が私を優越感に浸らせる。
この世界で、この壁の中で、人類最強と称される彼を、知っているのは私だけ。
その瞳の奥の、真っ直ぐな熱い視線の意味も、すべて。


「分隊長は酷い人です」
「あはは、そうかもね」





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