初恋のあなたと。









(♂夢/忍卵/平滝夜叉丸/死/長文ネタ/忍卵で初めて考えたネタ)



六い。学園を殲滅させるために送り込まれた忍。六年就学した者の実力を知るための潜入。
偵察を踏まえているはずだが、基本的に自由にしている。性格は極めて温厚。たいてい笑顔でいる。

体育委員。しかしサボり魔のため三年のころから委員会に顔を出していない。


「○!委員会にいくぞ!」

「○ならたった今窓から教室を出ていったぞ」

「また逃がした!」


そんなんだから滝夜叉丸以下体育委員は○の存在を知らない。
「今日こそは全員集めて委員会活動だー!!いけいけどんどーん!」という発言により○の在籍が後輩たちに発覚。

ある時○を加えて委員会活動。余計な体力使いたくない、というかぶっちゃけめんどくさがった○は巧みな言葉で小平太を丸め込み、素晴らしく良心的な委員会活動にすることに成功。後輩が「体育委員会なのに活動が人の限界を超えていない!」と感動。以来小平太以上に○を委員会に参加させるように躍起になる後輩たち。
でもさすが六年生。簡単に見つからない。委員会が終わった後に颯爽と現われる。


「よう滝夜叉丸、お疲れ〜大変みたいだなー」

「○先輩も参加してください!あなたも体育委員でしょう!」

「無理。俺一日の運動量は授業で限界だから」

「六年生は今日授業ないじゃないですか!」


滝が怒って突っ掛かってくるたびに遊んでいる。次第に滝が○に想いを寄せ、それをよしよしと可愛がっているうちに愛着が沸き、○もまた滝に好意を持つ。「学園にいる間だけ」と滝と恋仲になり、愛を囁いたり交合を経験する。

「なぁ、滝。二人だけの時は名前で呼べよ。○って」






ある時事件が起こり、○が密偵だと発覚。その時○は滝と別離を決意する。
○が密偵だという事実を知らされても、「嘘だ」と事実を認められない滝夜叉丸。過去の愛を縋り、人知れず姿を消した○を見つけだして、その背中に震えた声で問う。


「嘘でしょう…?嘘ですよね?貴方が密偵なんて…忍術学園の敵なんて、ありえないじゃないですか」

「あれは誤解なんでしょう?みんなきっと勘違いしているんですよ」

「だって貴方は、この学園で、ずっと笑っていたじゃありませんか」

「みんなを可愛がってくれたじゃないですか」

「だって」

「私を、愛してると…言ってくださったじゃないですか…」

「○、先輩」

「どうして何も仰らないんですか」

「○先輩」

「○」



振り返る○。やさしい笑顔はなかった。滝夜叉丸を見る目はただ冷たい。


「次に会うときはその下らん恋を捨てて俺を殺す覚悟を持て」


立ち去る○。自分を愛した彼は嘘だったんだ。自分の知る○は本当の彼じゃなかったんだ。あの気持ちは嘘だったんだ。泣き崩れる滝夜叉丸。
だが○もまた、滝夜叉丸への想いを消せずにいた。


○の属する忍軍と忍術学園の戦争が始まる。○は滝夜叉丸の姿を探しながらも、忍務に集中すべく学園長の庵へと向かう。
途中元同級生とも会うが、過去の者たちだと割り切り冷徹に戦う。仲間の忍者にその場を任せ、学園長のもとへ。庵へたどり着いたとき、待ち構えていた滝夜叉丸と対峙する。目には敵意が宿っている。


「来い、裏切り者!学園の敵となったことを後悔させてやる!」


敵を殺すべく刄を交える二人。生まれたときから優れた忍として訓練を受けた○。無論滝夜叉丸の劣勢。だが、優劣差は単に実力を比較しただけのものではなかった。


「迷いのある心で戦いを挑まれるとは、俺も嘗められたものだな」

「どけ。俺はおまえと戦いに来たのではない」

「まずは学園長の首を取る」

「おまえ達を皆殺しにするのはその後だ」



滝夜叉丸は焦った。護らなければ。彼を殺さなければ。でなければ大好きな学園を失ってしまう。


(その中で最も愛しい彼は、もういないけど)


この地を護るため、絶叫と共に○を攻撃する。それを避けられたはずの○はそれをせず、致命傷を負う。消えかかった命のともしびを感じて、学園殲滅の使命も捨てる。本当はもう、使命なんてどこかへ捨てていたけれど。


「滝」


いつかのような穏やかな笑顔。意識が朦朧とする。視界が定まらない。だけど最期はせめて、君を愛する自分でいたい。


「滝夜叉丸」






「○、せんぱ…」


まるで安らかなあの時に戻ったような錯覚。荒々しい破壊的な喧騒も、爆発音も、叫び声も、全部遥か遠くにあることのよう。
緊張の糸が切れたように、涙がこみあげる。おぼつかない足取りで○は滝夜叉丸に近づき、泣き出しそうな滝の頬に優しく触れる。
滝は○の胸に飛び付く。


「いやだ、嫌だ嫌だ嫌だぁあああッ!!死なないで…っ、○先輩っ…!」

「ねぇ、滝夜叉丸………○って呼んで」

「○、○、○、○…っ!………死なないで、私と」

「滝夜叉丸」





「ごめんな」


好きになって、本当にごめん。


滝夜叉丸の顔を上げさせ、口吸いをすべく顔を近付ける。滝夜叉丸の頬は、たまらなく温かかった。


(なぁ、これでお前は罪だと思わないだろ?)

(俺が殺されることで、この学園を守れたんだから)

(お前の重荷になりたくないよ)

(………ああ、でも、やっぱり)










(死にたくないなぁ)












唇が触れ合う前に、○は事切れてその場に崩れ落ちる。

○の体に引きずられて滝夜叉丸も地面にぐしゃりと座り込んだ。腕の中で○は動かない。

「○………?」

「○」

「○…、」


動かない。
呼吸がない。
なんで。

やだ。

嫌だ。

嫌だ。





『よう滝夜叉丸、お疲れ〜大変みたいだなー』

『○先輩も参加してください!あなたも体育委員でしょう!』

『無理。俺一日の運動量は授業で限界だから』

『六年生は今日授業ないじゃないですか!』


『ねぇ、滝夜叉丸………○って呼んで』

『滝夜叉丸』


『ごめんな』



――――――。







「っああぁあああああぁあああーーーーっ!!」










戦いは忍術学園の勝利となった。





飛鳥の墓は裏裏山の美しい景色が見える丘に立てた。毎日誰かが飛鳥に会いに来ていた。
滝夜叉丸もまた、飛鳥の墓へやってきていた。短い思い出を抱いて、滝夜叉丸は今日も彼を思う。


「○…。好きです…ずっと。ずっと、ずっとずっと、永遠に。」



さよなら。

ずっと愛しています。


私の一番大好きな、初恋のあなた。






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