竜の一族。







(♂夢/忍卵/善法寺伊作/特殊設定/長文ネタ)



竜の一族。
竜の血を授かった戦闘一族。修羅のように残忍な心と鬼すらも避けて通ると言われるほどの強さを持つ。
一族の多くは忍者として力を発揮している。

そこに生まれた○。
一族とはそぐわない優しい心を持って平和で温かい世界を望んでいる。
家族の目を盗んでは村へ遊びに行き、同じ年の頃の伊作と遊んでいた。
不運な伊作を○が助け、○が知らない花や生き物を伊作が教えてくれた。
お互いに心を許して信頼し好き合っていた。


しかし目を瞑られていたその行いも、七つを過ぎた頃になると許容されることがなくなってくる。



「この腑抜けが!!!!貴様は一族の恥だ!!」

父親からの忍者としての熾烈な育成が始まる。
毎日訓練で身体を傷付けられ、身動きの取れない生物の命を奪う。
竜の血が身体の傷を癒したが、心の傷が根深く残る。



「もういやだよ…僕は傷つけたくないんだ殺したくないんだ。村の人たちみたいに、平和に暮らしたいんだよぉ…」



(竜の一族として生まれたからには、切り離せない運命なのだと知っている。こうして伊作に助けを求めても彼は自分を助けられる力を持っていない。ここから遠く逃げようとしても、今も自分を監視している姉がそれを許してくれない。)

悲痛な○を見て胸が痛む伊作。なんとかしてあげたいのに。どうして僕には○を竜の一族から奪う力がないのだろう。

「○、僕がいつかなんとかしてあげるから…!辛いこと全部なくしてあげるから!」



しばらく村に現われなくなった○を心配した伊作が竜の一族の下へ。
そこに一族の暗殺を執行するために来た忍者が現れる。目撃者には死を、と殺されかける伊作。それを守るために初めて人を殺す○。

伊作を守れたのは父の訓練のおかげに他なく、力が無ければ守れないと悟る○。しかし人を殺した悲しみに涙を流す○を見て、伊作の中の○を救いたい気持ちが確固たるものとなる。

伊作が忍術学園に入学。


自分に何も言わずに姿を消した伊作に悲しんでいると、父が言う。


「そら、しょせん我らは人と共にいられないのだ。奴らは怯え、敬遠し、拒絶する。これは変えられぬのだよ。竜の一族は運命に則り、闘いに生きよ」


姉の報告により、伊作が○のために忍術学園への入学を決意したのを知っていた父。

「力を付ける前の今のうちに、首を刎ねますか」

「いや、あそこで修学したところであの小僧が我ら竜の一族に勝てるとは考えにくい。それよりもそれを利用しようではないか」



「恨みの力で○を鬼にするのだ」



伊作と○が会えぬよう、屋敷を燃やす一族。各々仕事を見つけてばらばらになる。
○は姉とコンビを組む。万一にも伊作と会わないように姉が○を監視している。

長期休暇に入り伊作が村に帰ると、竜の一族の屋敷が跡形もなくなっていた。
○の行方を知らないまま、五年の月日が流れる。



一方、姉と共に竜の一族狩りに遭う○。
強すぎる力を討つべしと、多くの城や同業者が一族が散っている今が好機として一蓮托生となって牙を剥いた。
命からがら逃げ切り、変装して竜の一族ということを隠しながら生き抜く二人。
フリーの忍者として戦に参戦した地で、敵上視察の実習として戦地へ来ていた伊作と再会する。身を守るための変装を解き、怒号飛び散る戦場で対峙する二人。
思い出すのはかつての父の言葉。

『しょせん我らは人と共にいられないのだ。奴らは怯え、敬遠し、拒絶する。これは変えられぬのだよ。』





「伊作…僕、ずっと待ってたよ」



心の中で常に求めていた親友。今は敵として自分と向かい合っている。
全てを捨てて伊作と共にいたい気持ちを殺し、走り去る○。一族狩りを危惧して、伊作と共に行くのを選ばなかった。

荒れ狂う戦地に残された伊作。
ずっと探していた友に去られて言葉もなくそこに崩れる。



○が変装を解いたことで竜の一族が生き残っていることが知れ渡り、一族狩りが押し寄せる。
姉と二人で応戦するも、多大な勢力に姉と死に別れ、○も虫の息。

そこに歩み寄る一人の忍者。

もうクナイを握る力もないと、気配を読み取るもなすすべなく意識を失う○。


もう死んだかと思ったが、目が覚めると生きていたと知る。
自分の命を救ったのはタソガレドキ城の忍組頭、雑渡昆奈門だった。

なぜ助けたのか問えば、竜の一族は敵対勢力ではなく、味方に付ければタソガレドキ城の有利になるからと言う。それに逆らったとしても死にかけの今なら竜の一族の治癒能力を持ってしても簡単に殺せる。

もう味方もおらず、死にかけの身体で逆らったところで対抗すべき力を持っていないと自覚している○は、どうせ外には敵しかいないからと雑渡に従う。


自分が生きていたのだからもしかしたら姉も、と思って雑渡に尋ねるが、姉は死んだと知らされる。
使えたら彼女もタソガレドキにと考えた雑渡は姉も連れ帰ったが、蘇生術を試みてもすでに手遅れだったという。



自分がどれほど一族の一人としてそぐわなくても、片時も離れなかった姉。
一族は自分のせいで散り散りになり奇襲を受けたというのに、原因の自分が生き長らえている。

残忍で厳しい家族だったが、自分は確かに姉を父を母を愛していた。
ごめんなさいと何度謝ってももう遅い。



タソガレドキ忍軍として闘う○。ある時雑渡に言われた。

「君はどうして忍者になったの?」

「力があったからです」

「君の性格考えると、忍者には向かないのにね」
「竜の一族ってやつも大変だね」


なりたくなければ、忍者にならなくてもよいと、竜の一族にとって侮辱とも取れるその言葉が胸にしみた。初めて自分の意思を見てくれた。


「組頭……僕、もっと早くあなたに会いたかったです」





敵対勢力との対峙。○は深手を負った。
朦朧とする意識の中、せめて命が尽きるまではと、竜の一族の名にかけて圧倒的な力を見せ付ける○。
対峙する者を容赦無く切り捨てるその姿は、見る者に鬼神を彷彿させたという。

その時、視界の端に映る少年。
緑色の忍装束は、かつて見た親友のものと同じ。

それをいざ殺さんと、彼の背後で刀を振り上げる忍者。



「伊作ーーーーー!!!!」



限界を超えたスピードで、まるで幼かったいつかのように、敵の息の根を止めた。
呆然と自分を見つめる親友。ああ、同じだ。その目も、髪も、手も、全部全部。
大好きな伊作だ。


二人の視線が交わされた瞬間、傷口からとめどない血が吹き出し、その場に倒れる○。
絶叫を上げて一心不乱に名前を呼びながら手当てする伊作。

「あああああぁああああ!!!!!○○○!!!!死なないで嫌だ!!死んじゃダメだ!!!!」

泣き叫ぶ伊作に、雑渡はいつか彼が保健委員長として手当てをした、というものとは別のものを感じた。
物腰柔らかいはずの保健委員長の我を忘れた姿に、何故か一瞬恐怖を抱いた。

戦場で闘う傍らで、伊作は応急処置した○を拉致した。



忍術学園の医務室に○は眠る。竜の血の桁外れの治癒能力で傷は凡そ塞がった。心臓も動いている。だが○は目覚めなかった。
食事もろくに摂らず授業も出席しない伊作を食満は心配するが、「そんな得体の知れない奴をそこまで熱心に看ることない」と言った途端、普段からは想像も出来ないような形相の伊作の怒声を受ける。

「いくら留さんでも、彼を悪く言うのは許さない!!」

伊作の異常なまでの執着に、以来食満は口出しできないでいた。

とある夜に、医務室に現われた雑渡。


「君がいなくなった隙に連れ帰ろうと思ったのに、君が余念なく○を一人にしないから出てきちゃったよ」

連れ帰るという言葉に過剰反応し、○を渡すまいと抱き締める伊作。


「離したまえ。彼はタソガレドキ忍軍の大事な勢力だ」

「やめてください!!彼を…○をこれ以上苦しめないでください!!」


「○は優しい人なんです…!!本当は闘いたくないんです!!どうして苦しめるんですか…っ!?どうして誰も彼の気持ちを考えてくれないんですか…!!!!」



泣きながら訴える伊作に、雑渡は戦地で見た一心不乱に応急処置をする彼を思い出した。
ああ、そうか。彼は○を知っていたのか。戦いたくないことも運命にあらがえなかったことも。
だから、忍者に向いていないにも関わらず、忍者の力を欲したのか。
○を全てから奪って守るために。

伊作の底知れぬ○への愛情を見た雑渡は、言葉に出されなくてもそう確信した。
何故か、○の意思を聞かぬ内に二人を引き裂くことが躊躇われてしまった。
自分を睨み付ける伊作に背を向ける雑渡。


「じゃあいいよ。そんな君から○を無理矢理奪ってもすごい恨まれそうだし、今日のところは退いてあげよう。
ただし○が自分の意思でタソガレドキに戻ることを望んだら、その時は返してもらうよ、保健委員長君」





雑渡が去り、○を連れていかれなかった安堵から、○を抱き締めたまま眠った伊作。
翌朝、数日ぶりの眠りから覚めた○は自分の胸を見下ろす。そこには洗っていないボサボサの髪に若干不衛生な臭いを漂わせる、意識を失う前最後に見た姿。

「いさく…?」

呼べばもぞりと動くそれに、もう一度名前を呼んでやれば今度は勢いよく顔を上げた。
しばし見つめあい、○が脂の浮いた伊作の頬を撫でる。

「ずっと看ててくれたんだね…ありがとう。」
「伊作、君を守れて本当によかった」

瞬間、○に抱きついて大泣きする伊作。
喘ぎながらの涙声は獣に似ていたけれど、何を言っているかはちゃんとわかった。



『○が生きててよかった』

『ずっと会いたかった』


『○、大好き』



大きすぎる泣き声に先生方や同級生たちがやってきて、伊作が恥ずかしがるのは数刻後。



事情を説明しろと、学園長の庵で話す二人の経歴と○の素性。竜の一族の生き残り、ということは異常なまでの治癒能力が周囲を納得させた。
今後どうするのかと問われ、タソガレドキに戻ると言う○。反対する伊作。

「伊作。僕はもう誰かに強制されて闘ってるんじゃないんだ。守るためには力が必要だと知っている。だから闘うんだ。」

「タソガレドキ城の忍組頭には恩がある。僕は報わなければならない」

「伊作に危険が迫ったとき、必ず駆け付けて守ってみせる。修羅でも鬼神でも、残忍だと言われようが構わないんだ。僕は伊作さえ守れたらそれでいい。僕の一番大事な友だもの」





学園を立ち去る○。別離を悲しみながらも門まで連れ立つ伊作。今にも泣き出さんばかりの伊作に、○は言う。「伊作。僕も伊作のこと大好き」と。

忍術学園の門を潜ろうとした○を駈け付けた食満が呼び止める。



「竜の一族!!竜の血だかなんだか知らんが、そんなもので自分が一番強いと思うなよ。守るとかなんだってのは俺と闘って勝ってから言いやがれ!!」

「だからまた来い!忍術学園に!!」



「来るよ、必ず」


(伊作のこと、よろしくね)



僕は傍にいないけど。
だけど誰よりも君が好き。
辛いときはいつでも助けてあげるから。
だから今はさようなら。

学園を立ち去る○。

今は傍にはいないけど、繋がってるってわかったから。
だから今は笑って見送る。
さようなら。


(君が生きているだけで、僕は幸せになれる)




×