恋のキューピッ豆腐。









(♂夢/忍卵/久々知兵助)



「お願いだ●!このとーりっ」

「ダメだダメだだーめ」


食堂で注文もせずに長机に額をぶち当てて頭を下げる兵助。その向かいにはいざ定食を食わんと手を合わせている五年は組の●○。「聞く耳持ちません」とばかりにつんとそっぽ向く彼は、一向に折れようとはしない。兵助は頭を上げて泣き出さんばかりの潤んだ目を○に向けた。

「とうふー………」

「早くどっか行ってくれよ。食いにくいったらない」

「なら食うな!俺が食う!」

「はったおすぞ」


○は不運なことに、本日最後の豆腐定食を注文した現場を、豆腐小僧もとい久々知兵助に見られてしまった。○より前に豆腐定食を注文した生徒達は既に食事を始めていて交換できない状態になっている。残りは○の持つ豆腐定食だけなわけで。

「俺だって豆腐好きなの。豆腐好きはお前だけじゃないの。早くハンバーグ定食貰ってきなさい」

「俺は豆腐がいいんだ!」

「恨むなら自分のタイミングの悪さを恨め」

「この鬼畜!」

うわぁあああ!と他では見せないハイテンションで机に突っ伏して泣きだし引き下がらない兵助。豆腐をめぐる諍いのせいで満席なのにこの長机に誰も座りに来ないし、他も迷惑そうにしてるし、保護者の勘右衛門や雷蔵や三郎や八左ヱ門も近寄ろうとしない。むしろ○を見る目が「譲ってやってくれ!」と語り掛けてくる。甘やかすな。

○は目の前の見苦しいだだっ子に目をやり、溜息を漏らした。「あー…もう」と諦めたように声を漏らし、兵助に呼び掛ける。ぐしゃぐしゃになった顔を上げた兵助に口元が引きつったが、気にせず口を開いた。

「全部はやらないからな……もう。ほら」

豆腐を箸で切って、一欠けをすくい上げて兵助の口に運ぶ。兵助は「えっ」と驚いたが、それが自分に与えられたものだと気付くと満面の笑顔で口に入れた。幸せそうな顔で咀嚼する兵助に、○の顔も緩んだ。だがそれが兵助に見られないうちに引っ込めて言い放つ。


「食ったんだから早くハンバーグ貰ってこいよ。豆腐は俺のもんだ」

「ありがとう●!●大好きだ!」

言うだけ言って、兵助はカウンターに走っていった。残された○の頬はほんのり赤くなり、それを誤魔化すように俯いた額に手を当てて深く溜息を吐いた。

「ったく…もう」


(お前のせいで豆腐好きになったんだから、恨むんなら自分を恨めよ、バカ)










「●って良い奴かも…どうしよう八左ヱ門、俺ドキドキしてきた。●が俺に豆腐あーんって…」

「くれたのが豆腐だからだろ」

豆腐を語るように、●○の名前を口にする兵助がしばらく四人の耳にタコを作らせたそうな。




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