神野事件。
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/敵連合/神野事件の前後妄想/友人の名前固定)
誘拐。
木椰区のショッピングモールには◎と一緒にきてた勝己。
それを見た死柄木。
トガが◎に近づいて拉致。
◎は友達と出かけていた。
「どうしたの?」
「◎ちゃん、血がいっぱい出てるよ」
チウ、チウ。
「カァイイねえ」
黒霧で撤退。
「これから敵にしようって奴を、人質餌に釣り上げンのか? 正義感を利用して取り込もうってんだろ」
「使える手札は多い方がいい。万が一の時のための保険だよ。他のことに使えるかもしれないしな」
「痛っ…」
「おはよう◎ちゃん!」
「…」
「◎ちゃん、寝起き悪いんだねえ」
…誰?私の名前を知ってる。
動けない。
「おい、口がきけないのか?」
「そんなことないですよ」
「ビビって喋れねぇんじゃねぇのか」
「手足の一本でも折れば嫌でも悲鳴くらいあげんだろ。どれ、俺が…」
「止めろ。大事なコマだ。丁重に扱え」
「黒霧」
「うっ!…いっ…た」
ワープで落とされた
どこ。暗い。ジメジメしてる。
何日も換気していない部屋だった。
ゲートから入って来る死柄木。
「ちょっとの間我慢してくれよ?用が済んだら解放してやるからさ」
「……用……?」
「そう。大事な用だ」
頭が回らない。
「爆豪勝己くんとは幼馴染だろう?」
「俺はさ、爆豪くんと仲良くしたいんだよ」
「…勝己に何するの」
この状況。彼らが普通に勝己と"お友達"になるとは到底考えられなかった。
「何もしない。ただ仲良くなるだけさ。彼にヒーローは似合わない。君もそう思ったことはないか?」
「勝己を敵にするの?」
「そうさ」
「…」
「なんか言いたそうだな。聞いてやるぜ?」
言いたいことは山ほどある。どうして勝己なのか。勝己もここに連れて来るつもりなのか。どうして私と勝己が幼馴染だと知っているのか。勝己が敵にならなければどうするのか。私がここにいる理由は。解放はいつ。怪我の治療はしてもらえるのか。部屋の掃除と換気は。目的は。
訳がわからなくて聞きたいことは山ほど出てくる。
でも、この人の台詞でどうにも頭に引っかかったことがある。
「貴方が、敵になった理由は何」
「…は?」
「そこがわからないと、「勝己はヒーローに似合わない」のか、わからない」
敵の全てが、同じ理由で敵になったわけではないだろう。ヒーローを志す人のその理由が様々であるように。
死柄木が何故敵になったのか。彼が敵になった理由に、勝己が符合する要素があるのか。
ヒーローとはどういう存在なのか。何を持って敵とするのか。万人一致の答えなんて存在しない。
ヒーローが全ての人を助けるなんて、現実的に考えてありえない。誰も彼も、見える範囲、手の届く範囲でしか助けられないに違いないのだ。それなら、遠くの地で活動するヒーローなんて有名な一般人と同じこと。
敵も同じだ。先人が決めた社会のルール。それに反する者を敵とするなら、そこに辿り着く理由は千差万別だろう。自制心がなく罪を犯したのか、信念のもとに敢えてルールに抗ったのか、本質がクレイジーなのか。また、想像でたどり着けない別の理由があるのか。
「…」
私の考えは、関係ないだろうけど。
死柄木は答えず、無言で首を掻いた。
(…熱い)
傷口が痛い。
(傷って、冷やした方がいいの)
「あんたは爆豪くんは敵にふさわしいと思わないわけか」
「あいつは殺す」
「普通に殺さない。死体は……雄英にでも捨てればいいさ。ショックだろうぜ。学校に幼馴染の死体が捨てられてたら。いつ殺すか。今はまだ早い…」
「傷口から発熱しているのでは」
「放っといても死なないだろ」
「いえ、警戒して食事に口をしていないこの状態で放置したら衰弱しますよ。すぐには死なないでしょうが、遠からずに」
「…面倒だな。死んで欲しいのは今じゃないんだよ」
ガリガリ。
「看病なんてしたことないぞ」
虫酸が走る。
明るい場所で守られると疑いなく生きてきたやつを、生かさなきゃならないなんて。
勝己誘拐後
ワープゲートの空間が閉ざされた。
大人しい。
部屋の中を見回す。入り口の場所、窓の有無、敵の数を確認した。
連れて行かれようと触れられた時、激しい爆発音がした。
「うお!」
「ナメんじゃねえぞクソが!!」
首を捉えていた男に爆破を浴びせかけ、その手から離れる。
八人。
(全員ぶっ殺してこっから脱出すんのが理想だが…)
やれるか、と思考する。
さっき自分が防戦一方だった野郎の仲間。こいつらの個性はなんだ。
「へえ…やっぱすごいなあ、君。そうこなくちゃ」死柄木
(こいつ)
「!」
一瞬で立ち位置が変わった。
(ワープゲート!)
「ぅウッゼェなあ!!」
「おい、いい加減にしろよ。部屋から出られねぇ状態でこの人数相手に勝てると思ってんのか?」
「っせえ!」
「てめェをぶっ殺せば外に行けんだろーが!」
「そう簡単にさせないっつーの!」
「っ!」
黒霧の方に手を向ける。瞬間、動きが止まって瞠目した。
「…、」
◎。
そう認識したと同時に、後ろから衝撃があり床に伏せられていた。上に乗られている。重い。
「全く呆れるぜ」
「っの…!離しやがれクソ!」
「彼女は大事な幼馴染でしょう。傷を付けられたくなければ大人しくしてください」
「ザ、けんな…!」
なんで◎がここにいんだよ。
なんでンな格好してんだ。その腕の包帯はなんだよ。一体いつからここにいた。なんでこいつらは◎を知ってる。
「いいぞ黒霧。コンプレス、眠らせとけ」
「やっぱ連れてきてて正解だったな」
(ク、ソが…)
◎。
「◎」
「勝己…?」
「お前なんで捕まってんだよ」
「…友達に刺されて、気づいたらここに」
「刺されたの腕か」
「うん」
「…他に何もされてねえだろうな」
「うん…たぶん」
「服どこやったんだよ」
「さあ。逃げないように取られたのかも」
「それだけか」
「……さあ。何かされたかもね」
自嘲ぎみに笑った。勝己が心配しているのは恐らく、純潔を穢されたか否かなのだと察しがついた。
「寒い…」
「個性使えよ」
「だるい」
寒い、と◎はもう一度言った。今度は空気に霞むような微かな声だったが、聞こえた。
何もできない。こんなに近くにいるのに。服を貸してやることも
「……クソ」
「死ぬのかなぁ……私」
「変なこと言うな」
「だって、……」
怖い。
それは意図して小さく放たれた。誰かに聞かれればそれが引き金となって本当に死に導かれるような気がした。闇がすぐ足元まで迫っている。自分を覆い隠して消してしまう。ここに連れて来られた時の様に、また知らない場所に連れて行かれてしまう。そんな想像が止まらなかった。
「俺がいんだろうが、今は。ぼっちン時よりかはマシだろ」
「ふ」
「勝己は、何もされてない?」
「…ああ。あんなやつら痛くも痒くもねえわ」
「そう、よかった」
「おなかすいた」
なんか勘違いしてやがるな。
どこでンなデマ掴まされたか知らねえが、俺を釣る為だけに◎を連れて来やがったのか。ムカつく。許さねえこいつら。そんな言葉では収まり切らなかった。
殺す。
言葉よりも感情としてそれは湧いた。
戦闘訓練でオールマイトが言っていたこと。
『敵は狡猾だ』
「…まったくだぜ。クソが」
救出の直前
「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話聞かねーとは…逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね」
「あ、そうだ
黒霧」
◎を出す
「きゃ」
「!」
「こいつ、殺そう」
「ムカついてたんだよなぁ。どうやって殺そうかずっと考えてたんだ。君の前で殺そうと思った。君がヒーローになることを応援してるんだってさ。ムカつくよな。俺と意見が合わないんだよ」
怖い。動けない。声が出ない。勝己の方も見れない。震える。
「お前名前なんだっけ?まあいいや。
お前が助かる方法は一つだけだ。彼が俺たちの仲間になること説得してくれよ。優しいだろ? たったそれだけで助けてやるって言ってんだぜ? まあ、お前が説得できなかったら利用価値ないってことだけど。
早く言えよ。ヒーロー諦めてくれってさぁ」
「っ…」
何か言おうと、口を開くのがわかる。声はなかった。そんなことが二度ほど繰り返された。
「…嫌……」
◎の短い声の後、小さい嗚咽が漏れる。ぼたぼたと涙が溢れる。一度声が出てしまうともう抑えられず、恐怖のままみっともなく泣いた。
◎が天秤にかけたのは、自分の命と勝己の夢ではなかった。
勝己を好きということを、終わらせるか否かだけだった。その選択に、自分の延命が入ってきてくれなかった。
十余年、ずっと見てきた勝己を否定したくなかった。それは己が愛したものを殺さない選択だ。そして答えた直後に◎は思った。ああ、死ぬ、私死ぬ、と。死が怖い。逃げる術もない。手も脚も震えて、空腹で立てる気もしなかった。自分はバカなことを言ったのだろうかとも思った。
「…じゃあ死ねよ」
「…!」
勝己が◎の名を呼びかけ、足が浮くその時だった。
「どーもォ。ピザーラ神野店ですー」
ヘドロに飲み込まれる時
「勝己!」
「勝己!ダメ!行かないで!」
バシッ!
(こいつまで飲まれるわけにいかねぇっ…!!)
「なんで…」
(勝己)
「シンリンカムイ!少女を安全な場所へ!」
どこかに行くのは、いつも私の方だった。
勝己はいつも私の手を引いて連れ戻してくれた。
私は
どこかに行ってしまった勝己を、どうやって追えばいいのかわからない。
勝己。
(いない)
勝己。
(消えた)
勝己。
(どこに)
………勝己。
(いなくなる)
(…嫌。嫌だ…嫌…)
手が震える。
瞬きの仕方を忘れる。混乱で空っぽなのに涙が勝手に湧く。
立つべきなのかもわからない。
勝己。行かないで。私の知らない場所に行かないで。置いて行かないで。こんな怖い場所に一人きりにしないで。
もう嫌だ。
……もう嫌だ。
日常から引き離された。唯一の希望だった勝己も消えた。臭いヘドロと脳みそ丸出しの敵とトップヒーローが入り乱れる半壊のビルは地獄だ。勝己がいてくれなければ、勝己がこの手を掴んでくれなければ、どうやって元通りになるのかわからない。
腰を上げられないまま目の前の喧騒を他人事のように聞き流して呆然と俯く。逃げなければならないのだろうか。そんなことすらわからなくなる。体が木に巻きつかれた時に全部どうでもよくなって、◎は半ば意図して、この地獄から遠のいた。
保護後。塚内。
「なぁ、あいつは。保護されたんだよな」
「あの場にいた女の子なら病院に運ばれたよ。怪我もあるけど、衰弱していてね」
「怪我って、あの後なんかあったんか」
「いや、突入後はこれといった怪我はしてない。ただ、腕を深く刺されていてね。でも命に別状はないし、腕も後遺症は残らないそうだ」
「彼女とは親しいのかい」
「身内、みてぇなもん」
「そうか……心配だろうけど、先に話を聞かせてくれ」
病院
「……」
どこだろう。
「塚内っていうんだ」
「あの、かつ……ばく、爆豪くんは」
「爆豪くんは、保護されて今は家にいるよ。一人で出歩かないようにしてもらってる」
ほ。
「あと、私攫われる前に友達と出かけてたんです。その子がトイレから戻ってきてたら様子が変わってて、綾吊操って子なんですけど、その子は無事ですか」
「うん、それも含めて、事件当時のことを聞かせてほしいんだ。その子のこともすぐに調べるよ。いいかい?」
「……はい」
「操さんは学校の友達で、二人で遊びに出てて……」
「手の人が、爆豪くんの前で私を殺そうと思ったって言っ……」
息を浅く吐き、
「すみません……。あの、あの人たち捕まったんですか」
「一部逮捕された者もいる。だけど、それ以外は今も逃走中だ。我々も懸命に追跡を試みているところだ」
「病院に警察の人は……」
「うん、君に危害が加わらないようにちゃんと警戒しているよ」
母親
「あのね、◎」
「警察から◎を雄英に編入させようって話が出てるの」
「禄聖は現役のヒーローがいないしセキュリティも外部依頼だから、また今度敵が現れた時に、雄英の方が対応しやすいって。雄英も受け入れる用意をしてくれるって」
「うん」
勝己が見舞い
勝己の両腕を取り、頭をそっと傾けて勝己の体に押し付けた。頭は胸に当たり、感触があることに安堵する。手で触れるより、彼の胸板に頭を預けた方が安心できた。
「よかった……」
「こっちの台詞だよ。二回目だぞ、おまえが病院の世話になんのぁ」
「そうね」
「私ね、雄英に編入する」
「禄聖は現役ヒーローがいないし、セキュリティも外部対応だから、あの手の人がまた私を殺そうとする可能性があるなら編入した方がいいって……警察の人が言ったの。
またあの人たちと会っちゃったら、怖いし」
「私って勝己から離れられないみたい」
20200917−02引用
家庭訪問
爆豪家
「おや、君は…」
「こんにちは」
「その子の家、両親が出払いっぱなしか篭りっぱなしなんで、うちで預かってるんですよ」
(そういうことか)
「そうですか。元気かい?」
「はい、お陰様で。あの時は助けてくれてありがとうございました」