勝己の隣にいたのは私かもしれなかった。二人目






風の噂を聞いた時点では、◎の中の爆豪勝己の印象は決して悪くはなかった。

ヘドロ事件で敵からの拘束を耐え抜いたタフネスで、入試一位の圧倒的戦闘力。そのレッテルは、中学生らしからぬ勇猛果敢な豪傑を想像させた。事件の被害者と言ってしまえばネガティブなイメージが付き纏うが、自分を彼に置き換えた時に果たして彼と同じことができるかと自問すると、己の入試結果を見るに否であることは明らかだった。◎にとって勝己は、自分より上にいる存在だった。
しかしそのイメージも、教室で初めて顔を見た時に地に堕ちた。


「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」


能力が飛び抜けていても、人格に問題があり。
それがこの目で爆豪勝己を見た感想だった。

こんなやつが受かるなんて、雄英のヒーロー科は入試内容を見直した方がいいんじゃないかと心配したし、こんなやつと同じ教室で毎日顔合わせなきゃならないのかと思うと先行きも不安だった。彼の喧しさを見た◎は、自分の道を妨害される予感しかなかった。あまり関わらないようにしよう。そんなことが天下の雄英高校に入学して一番最初に決めたことなのだから、◎は彼に相当悪い印象を持っていた。

経験上、嫌いな奴はずっと嫌いだったし、第一印象が強烈な奴ほどそのイメージは長く付き纏った。
だから◎は爆豪勝己とは卒業まで話さないだろうと思っていた。





















「うわ、何その顔」

教室の前のドアから入ると、顔が傷だらけの轟が目に入った。

「補講でやられた」

「へえ、私も受けてみたいな。どんなことやってんの」

「おまえ仮免受かってるだろ」

「だって戦闘力ツートップがボロボロなってるなら、私にとっても確実に鍛錬になる」

「うるッせんだよしゃしゃり女!」

轟に問いかけながら、私は間接的に爆豪が補講で何をしているのかを訊いていた。轟がしたことは爆豪もしていることだ。
入学して半年。当初の予想から大きく外れて、私は爆豪に興味を持っていた。目の届かない時に何をしているのか気にする程度に。


今では、爆豪のことは嫌いじゃない。

……嫌いじゃないというよりも、好きな方だと思う。いや、好きだし、尊敬もしてる。絶対に言いたくないし、だから努めて考えないようにもしてる。
しかし恥も外聞も理性もなく、自分の気持ちをただ機械的に羅列するならば、爆豪のことをずっと見ていたいし、彼に先導してもらいたいと思っている。そして欲を言えば、私を見てほしいと思う。

これといったきっかけがあったわけではない。ただなんとなく、彼を知るほどに意外な面が見えてきて、見直しているうちに評価が上がってしまったのだ。
態度はああでも成績は私より上だし、絶対に揺るがない姿はある意味安心する。彼ならこうするだろうと私が想像したことをいつも軽く凌駕する。彼の強さを尊敬した。私も爆豪みたいになりたいと思った。



だけどそのことは認めたくなかった。私はヒーローになりたくて雄英に来てるし、恋愛に現を抜かして目標に進む足を止めたくない。他のどんなことを捨ててでも、それだけは絶対に譲ってはいけないことだ。

恋愛っていうのは、浮き足立って黄色い声を上げて、頭空っぽにして幸せいっぱいになる感情だと思う。そうなりたくない。私はちゃんと緊張感を持って進んでいきたい。少なくとも、私は夢と恋愛を共存させることができない。融通が利かないのだ、昔から。
何か一つに決めなければならないなら、私はヒーローを目指す。





ほんの些細なことで、すぐに爆豪のことを思い浮かべてしまうけれど。





(こうして二人目は、自分の志を最優先するべく勝己へ抱きかけた恋愛感情を意図的に封じました。それぞれが脇目も振らずヒーローへの道に突き進むため、二人は一緒になれませんでした。おしまい)




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