その手をどけろパロ






(♀夢/英雄学/爆豪勝己/緑谷出久/上鳴電気/「その手をどけろ」パロ/notヒーロー志望/)



勝己にだけ見えるものがある。
勝己はそのことを私にだけそっと教えてくれた。



何かを見ている時の勝己は、大抵気分が悪そうだった。だからきっと悪いものが見えているんだと思った。

他の子が何もないところを指差して「女の人がいる」なんて言っても私はきっと信じなかっただろうけど、勝己の言うことなら信じることができた。勝己は私よりも、この世界で色濃く生きている人だからだ。鮮やかで、他のすべてが霞んで見えるほどに勝己の輪郭ははっきりと私の目に映る。私の目で見ている世界と、勝己の目で見ている世界が異なるのなら、きっと勝己の目で見ているものの方が正確なのだと思う。

だからといって私も自分の目を疑うほど意思薄弱ではないし、何かが見える勝己を信仰しているわけでも、勝己以外を信じられないほど閉鎖した世界で生きているわけでもない。
ただ疑う必要がないから信じているのだ。所詮私に見えないものなど、私にとっては取り立てるほどのものではない。



けれど勝己にしか見えないものが私たちの害悪となるのなら、勝己の目を閉じさせることはするだろう。





「こいつに触んな、クソデク」









という雰囲気のその手をどけろパロ。
樹→勝己。
こた→緑谷
ゆうと→上鳴

緑谷の潜在能力に引き出される形で、幼少期に超能力に目覚めた勝己。溺れた緑谷を助けたのをきっかけにして色々見えるようになった。
勝己は後天的に身に付いた能力が好きではなく、自分に能力を植え付けたきっかけである緑谷を畏怖し、唯一自分を気味悪がらなかった◎だけに能力の詳細を話している。
緑谷は小学校に上がる頃に引っ越した。

勝己はその場の残留思念が見えてしまう。残っている感情が強いほどイメージが強く飛び込んでくるので、雑踏が苦手で、治安の悪い場所や心霊スポットには絶対に行かない。

◎は勝己の幼馴染で彼女。



上鳴は感情のオーラが見えてしまう人。だから社交的で人に好かれてる◎が腹の底では実は温度低めで人と接しているのがわかるし、勝己に特別強い感情を持っているのも知っている。同様に勝己が◎にだけ全く警戒していないのもわかっている。◎と対するときの勝己は無防備だった。



高校入学に合わせて戻ってきた緑谷。
勝己も上鳴も、緑谷に接触している時は能力が過敏になるため、勝己は触りたがらないし、上鳴は緑谷に興味を持つ。
勝己は自分が緑谷に触るのも嫌だけど、◎が緑谷と接触するのを絶対に許さなかった。怖いもの(と勝己は言わないけれど)を◎に見せたくなかったし、この能力があって良かったことなんてなかったからだ。




――

緑谷が引っ越した後、◎と勝己は雑木林で遊んでいた。

「そっちには行きたくねえ」

「どうして?」

「女が殺されてるから」

◎は辺りを見回すが誰もいない。人影もないし、足音もないし、蝉の鳴き声と風以外の音もなかった。

「誰もいないよ?」

「……見えるんだよ」

「おばけ?」

「ちげえ。その場所の、嫌なこと……たぶん」

――勝己はいつも見えないものを怖がっていた。他の子の前では言わないけど、私にはその理由をそっと教えてくれた。
私には勝己の言うものが見えなかったけれど、勝己が嘘を吐いていると思わなかった。私は勝己を疑ったことがなかったから、勝己が言えばそれが真実だと思っていた。勝己は私よりも確実に色濃くこの世界に生きているから。

「私も死ぬ?」

「なんでそうなんだよ。生きてんだろうがお前は」

「だって女が殺されてるって言うんだもん。私も女だから、死んじゃうかも」

「お前が死ぬわけねえだろ」



「ねえ。私は見えないから、勝己が一緒にいてね」

言葉足らずだったと思う。だけどそれで良かった。◎は勝己を怖がらなかった。




戻ってきた出久は、幼い頃に勝己に助けられたことを覚えていて恩を感じているし、憧れも持っている。仲良くなりたいのに訳がわからないまま拒絶されている。自分のせいで勝己が能力に目覚めていることを知らないし、そもそも超能力が実在すると思っていない。





「私は出久くんのことをいい人だと思ってるけど、勝己が本当に嫌だと思うことはしたくないし、出久くんにもしてほしくないの。出久くんが引っ越しちゃった後も、勝己は出久くんのことをずっと覚えてたわ」




「帰って来なければ良かったのに。そうすれば勝己はぐちゃぐちゃにならなかったわ」





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