緑谷とカモフラデートしたい顔はいいクラスメイト






(♂夢/英雄学/緑谷出久/未完成)



「というわけで俺とデートしてください緑谷出久さん」

「ちょっと待って」



神妙な顔で悩みがあると告げられて、聞いてみたら年上の女性に熱烈なアタックをされているので断りたいというちょっと羨ましいような内容で、その話の終わりに冒頭の台詞である。

ホームルームが終わった直後にそんな話をされたせいで教室の中の空気が固まった。背後で繰り広げられた会話に思わず振り返った勝己は動揺しているのか○を三度見くらいした。その歪んだ顔には驚きの他、わかりやすく「キメェ」と書いてある。

同様に出久もその申し出にドン引きしているのだが、語る○は至極真面目で今は頭を下げて頭頂部を出久に向けている。いつも飄々としている彼が頭を下げて頼むくらいなのだから困窮しているのだろう。助けてあげたい気はあるが、素直にいいよと言えない誘いをされてしまった。

「なんっ…なんで僕?」

「プライドと意識が高い美人は美人を引き合いに出すよりも、地味で内面勝負系の子とイチャついた方が効果的だ。土俵が違うからプライドを傷つけずに諦めてもらいやすい」

「いやいやいやおかしいよね?僕男なんだけど?」

「性別の壁は超えられないだろ」

「なんだろう…説得力は認めるけど一切納得できない」

○は出久の机に手をついて、頭をぐったり落としたまま重くでっかい溜息を吐いた。頭を上げて頭を掻くと付け足すように「俺もできればこんなこと頼みたくないんだけど…」と小声で呟く。

「頼むって。今の俺の知り合いの中じゃ緑谷が一番適任なんだよ」

「ええー…理由は?」

「まず女子はダメだ。女相手だと土俵が同じだけに女子が逆恨みされやすい。峰田は絶対に俺<女になる。美人のモデル体型だからたぶん上鳴も女に興味持ちそうで却下。エロいし。あの人面食いでもあるから轟はむしろターゲットにされそう。瀬呂は友達の感覚が強すぎて俺が恋人っぽく振る舞えない。砂藤と飯田は嘘つけなさそうだろ。口田はピュアすぎてこんなことに付き合わせたくない。切島は頼めばやってくれそうだけど途中で嘘ついてることに耐えきれなくて白状しそう。尾白はフラットにいい奴だから男って意識されなくて同じ土俵に立たされそう。爆豪、青山はそもそもコミュニケーション取りにくい」

「んだとテメエ!デクには出来て俺にはできねえってのか!?ああ!?」

「じゃあ爆豪お前、俺が甘い声で「勝己」とか呼んで恋人っぽいボディタッチとかしても一切イラつかず苦い顔も見せず恋人役に徹することできるの?」

「うっ…!」

「ほらー」

(むしろなんで僕なら大丈夫だと思ったんだ…)

―――僕だって嘘つくのはどっちかっていうと苦手だし、結構顔に出るぞ。そもそも恋人っぽいボディタッチって何だ…?

この話を受けたら今○が言ったことが自分に向けられるのだ。甘い声で「出久」と呼ばれて、恋人っぽいボディタッチ。どこをどのように触る気なのだろうか。腰とか、尻とか?男同士で?
想像するだけで鳥肌ものだった。

「そもそも爆豪ダメだよ。顔悪くないし男らしいし向こうの好みのタイプっぽい。四六時中連絡してくる依存心の強い構ってちゃんと付き合いたいなら喜んで鞍替えしてもらうように立ち回るけど、そういう年上の女好き?」

「てめぇに惚れてた女なんざいるか!死ね!!」

「生きる。というわけで消去法で緑谷しかいないんだよ。障子と常闇は異形だし外見に惹かれた体でいいと思ったんだがいざという時キス出来ないから諦めた」

「待ってキスするの!?」

「要求されたらだよ。目の前で男同士のベロチュー見せられたら諦めるか腐女子になるしかないだろ」

「しかもベッ、ロ…!?あと腐女子って何!?」

「そこは知らないままで大丈夫だ」

「嫌だよ!!!!」

ファーストキスだってまだなのに!
絶叫する出久は○の予想通りだったらしく、「だよな」という顔をした。しかし引き下がる気は無いらしく、腰を下ろし頭を低くして机の上で出久に向かって手を合わせた。

「頼む」

「…そうまでして絶対に断りたい人なの?美人でスタイルもいいんでしょ?」

「断りたい。連絡来すぎて通知が死んでる。電話に出たら出たでキレられるし怖い。もっと自立してる人と付き合いたい。親の金で生きてる高一の夢追いかける少年にどっかり寄りかかってくる女性は全力で遠慮したい。最近夜中まで連絡来てて寝不足でいい加減諦めてほしい。マジで頼む。こういうのは相手に認めさせた上で諦めてもらうのが一番後腐れないんだって」

「っていうか●くんは男同士でキスするの平気なの?」

「男のパンツ被るよりマシだと思って耐える」

(あ、嫌ではあるんだ)

言われてみれば端正な顔には薄っすらクマがあり、寝不足というのは本当のようだった。そういえば授業中もかっくり頭を落としていると休み時間に瀬呂が話していたことを耳に挟んだ気がする。同じヒーローを目指す者として睡眠時間を削られて望まない猛アタックに意識を散漫させられるのはどうにかしたいのだろう。理解はできる。大変なことだ。しかし、受ければ恋人がやるようなあれこれを男同士でせねばならないと思うとどうしても首を縦に振れない。やるなら女子がいい。女子が好きだ。

「………」

「………」

「ご、ごめん…やっぱり…」



「わかった」



「オールマイトの大ファンなら、デビュー10周年記念で製造された1/10スケールフィギュア知ってるよな。世界で五体しかない超激レアフィギュアだ」

「えっ、うん」

「受けてくれたら譲る」

「え!!持ってるの!?」

「家族一枚ずつハガキ送ったら当たった」

「やる!!」


ピッ。


「言ったな?」


「ヒーロー志望が物に釣られてんじゃねえよ」





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