肥溜め育ちのヒーロー






(♂夢/英雄学/相手未定。相澤か爆豪)

※汚い・残虐な表現があります。










 子供のとき、俺はおもちゃだった。

 蝉の足を一本ずつ千切り、羽を一枚ずつもいで、目を針で刳り貫いて、腹を木の棒でぐしゃぐしゃと潰すような子供の無邪気な残虐さ。
それが俺に向いていた。俺は本来存在しない子供だったからだ。

世間に認知されてない子供だから死んでも罪にならないのだと毎日のように言われた。つまりそれは、いつか俺はこいつらに殺されてしまうってことで、その認識は揺らぎようのない真実として俺の頭の全てを占めた。いつか殺されてしまうならどうか早く殺してくれ。
だけど俺のように弄べる子供ってのはそうそう多くないようで、ありがたくない事に俺はひどく重宝されながら痛めつけられた。決して殺される事はなかった。今日は痛みが強いとか弱いとか、今日はこいつのケツから出たものが俺の飯とか、最悪なことばかりが続いた。幸福なんて言葉も知らないし片鱗のイメージすらできないガキだったのに、最悪なことしか知らなかったのに、痛いのも不味いのも臭いのも俺は嫌いだった。その時の俺は、俺以外の人間は死なないと思っていたから、自分の死を毎日願っていた。今となっては絶対に思わないが。


 そんな日が気が遠くなるくらい永遠に続くと思っていたが、ある時警察が来て俺の地獄は終わった。
 当時は、突然知らない人が俺を連れてったくらいにしか思ってなかったが、俺をおもちゃにしてた連中は警察に捕まるような犯罪をやらかしていたらしい。俺はその逮捕のついでに保護された。普通仲間であることを疑われるんじゃねえかなって思ったんだけど、確か保護されたとき爪が剥がされてる上に至る所の骨が折られてたし、そもそも裸で糞まみれでガリガリの骸骨みたいなガキだ。動く事すらままならないし、一目瞭然で保護対象だったんだろ。とりあえず、体に何かを巻かれたことと、連れて行かれた先で一番最初に裸で水を浴びせかけられた事を覚えてる。体にこびり付いた糞を洗い流したんだと思う。鍋の焦げを取るみたいな遠慮のない手つきで体を洗われた。
茶色く見慣れた肌の色が本当は白かったという事を俺はそのとき初めて知った。

 俺は喋れる学もなくて、ゲボ野郎が垂らした糞を食ってたせいで何が飯かも判別できねえ赤ん坊以下のクソガキだったんだが、奇跡的に見捨てられる事はなかった。
 本当に赤ん坊にそうするように飯と下の世話をされて、懸命に話しかけられた。そん時たしかもう六歳ってことになってた気がする。具体的な出生日がわからないので俺の年齢は推測だ。もともと便所に捨てられてた赤ん坊だったじゃなかったっけかな。実際のところ届け出のない子供をゲボ野郎が拾ったってことしかわかんねえから、壁から産まれたとか空から降って来たとか地面から生えて来たとか言われても否定しきれねえ。んなこと普通に考えたらありえねえけど、誰も証明できねえだろ。

 どこが境目になったか覚えてねえけど、たぶん俺は施設に入った。俺と同じくらいのガキとか、ちょっと背が高いやつとか、いろんなガキがいた。そんなかでも俺は虐められてた。チビで細くて喋れないやつだったから恰好の的だったんだろうな。施設ん中は暗くて貧乏で辛気くさくて気分が悪かったけど、生まれてから味わってきたもんに比べれば大した事はない。だけどはじめに言ったように、俺は痛いのも不味いのも臭いのも嫌いだった。痛えって思うと、なんでこいつらが痛くなくて、俺だけが痛い思いしてんだ?って思うようになった。
そしたらなんか突然、本当に突然、何も景色が変わらない中なのに、俺を虐めてた主犯のガキが苦しみ出した。ああああ、とか、途切れ途切れに、苦しい、助けて、って言ってた。その当時俺は言葉の意味がわからなかったが、そいつが本当になんか様子がおかしかったから異様だった。しばらくぼーっと見てたけど、え?って思ったら、今度は急に大きくゼーハー言い出した。長く水に潜った後に顔を出した時みたいだった。
 何やらそれは俺の個性(俺が発している何か)によるものだったらしくて、施設の管理者がこんな子供は預かれない、とどこかに電話していた気がする。ガキ共の間でも俺を取り巻く空気は腫れ物に接するようなそれだった。
 しばらくして俺はまた知らない人に連れて行かれた。着いた先は、今まで過ごしてた施設が何十軒も入りそうなくらいでかい建物で、俺はすごくきれいな女に連れて行かれた。優しそうな人だった。歩いた廊下はひどく長く感じた。実際はたぶん大した距離じゃなかったんだけど、俺は体力が絶望的になかった。この世にある地面を全部踏んでいるくらいの気持ちで歩いて、ぶっ倒れそうだった。

だからもうあんま覚えてねえんだけど、どっかの部屋に入って、足を止めて、知らねえおっさんの前に立たされて、なんか言われたんだけど頭ん中に入って来なくて、ぶっ倒れる前にまた知らねえおっさんからこう言われた。

「君にはまだ難しい言葉だったかな」

それさえもうろ覚えだった。とりあえずなんか言われたけど、俺は一ミリも理解できてなかった、ってことはわかった。




「個性使っちまったら犯罪なんだから無個性と同じだわな」

「おいガキ勘違いすんなよ。死なせちまったら犯罪なだけで、使用自体が禁止されてるわけじゃねぇんだ。俺の前で調子こいてっと気ぃ失うまで窒息させてみっともなく糞小便垂れ流させて強制的に大人しくさせんぞ。」
「…ちっ」
「よし」


「可愛くねーガキ」




―――君の力を正義の為に執行する気はないか。





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