夜よりも怖かったこと。
(♀夢/英雄学/爆豪勝己/notヒーロー志望/幼少期)
子供の頃、知らない人に手を引かれたことが怖かった。
その人は当然のように私の手を引く。止めてくれる人は誰もいなかった。
外は夕暮れでどこかでカラスが鳴く。怖くて何も言えないまま知らない家に連れて行かれた。その家は暗い。電気を点けた後は明るいけど、どこもかしこも空々しかった。初めて見る食器でよくわからない料理を食べさせられた。私の手を引いた女の人と、知らない男の人の間でベッドに入れられた。私が眠ってしまったら、両隣の人がお化けになって私を食べてしまうのではと思った。怖くて眠れなくて、昨日まで一緒に寝ていた勝己のことをずっと考えていた。しとしとと泣き、気づいた女の人が私のお腹を優しくぽんぽんと撫でた。それには少し安心して、私は泣くのにも疲れたのかいつのまにか寝ていた。
次の記憶では、私は勝己の隣で勝己が集めたヒーローカードを眺めていた。昨晩のことは断片的にしか覚えていなくて、夢かとも思った。昨日眠ってから勝己の隣に行くまで、何も覚えてなかった。
また勝己のいるところに戻れたことに安堵した。私は知らない場所に連れて行かれたことが怖くて、外に遊びに行く勝己に強請ってついて行くようになった。
きっと堂々とした勝己に影響されてたのだと思うけど、彼の隣を歩くと視界ははっきりとして、どこを見ても興味深い世界に溢れていた。ここにいれば大丈夫。そう思って望んで勝己の隣にいた。勝己の手を握って、置いて行かれないことを願っていた。
忘れた頃にまたその人は来た。ソファで勝己と並んでテレビアニメを見ている時に現れた。◎、帰るわよ。そう言って私を見ていた。お母さんも、早くしなさい、と言った。
私は答えないまま隣にいた勝己の手を握った。勝己は私の様子を見て、知らない人たちに言った。
『行きたくねーってよ』
そう。そうなの。勝己はわかってくれる。
私は勝己の言葉を頼って頷いた。
知らない人はテレビを見て、私の隣に座った。じゃあ見終わったらね。そう言って一緒にアニメを見ていた。…違うのに。そうじゃないのに。
アニメの内容はあんまり頭に入ってこないまま、終わらないでほしいとずっと考えていた。だけどアニメは終わって、エンディングも次回予告も提供も流れ尽くした。バラエティ番組が始まってから、知らない人は私の顔を覗き込んで、帰ろ、と優しく言った。私はトイレと言って逃げた。トイレにいる間にいなくなっててほしいと思ったけど、その人はまだいて、お母さんと仲良く話しながら勝己の頭を撫でてた。撫でんな!とソファから離れた勝己が私の前で止まる。勝己を目で追っていた知らない人の目が、私に留まった。
さ、◎、帰るわよ。
やだ。
嫌だ。
そっちに行きたくない。
「勝己」
「ん?」
―――
幼少期。
光己のことを母親と思っていて、本当の親をまだ認識してなかった時のこと。
知らない人は母親。