思いついた。









(独創物/場面ネタ/死表現)



背景設定適当。
シチュエーション書きたかっただけです。
名前は仮。
→飛鳥(主)/鷲尾/赤松





拳銃が鷲尾の額にゴリ、と当てがわれる。鷲尾の表情は相変わらず微動だにしなかったが、冷や汗が流れたのを飛鳥は見た。
隣では赤松がカタカタと震えている。目は焦点が合っていないし、顔面蒼白だった。初任務で捕われて、命を揺るがす秘密を守らねばならないなど、彼は不運だった。

「どうしても口を割らないつもりか。」

黒服の男が言う。特別凄みを感じさせるような口調じゃないのに、じわじわと崖っぷちに追い詰められている気持ちにさせる。
鷲尾を口角を上げて答えた。彼の顔も蒼白だ。ただでさえ血色の悪い肌だというのに。

「誰が言うか。下衆」

ぴくりと奴の手元が動いた。気に障ることを言ってしまったらしい。奴のこめかみは痙攣していた。息が苦しいほどの一触即発がビリビリと肌を刺す。
奴は憎らしげに鷲尾を睨み下ろしていたが、不意に銃口を鷲尾の後ろの飛鳥に向けた。突然の標的変更に飛鳥は瞠目した。鷲尾も予期せぬ事態に表情を変えた。

「!飛鳥…」

「これでも言わないつもりか、鷲尾拾士郎」

初めて鷲尾が動揺を見せた。揺れている瞳が迷いを表していた。飛鳥は銃口を向けられてた瞬間息が止まったが、鷲尾の様子を見て苛立ちが立ちこめた。

「おい鷲尾隊長。変なこと考えんなよ。俺はアンタの部下だぜ?」



死ぬときは、一緒だ。



鷲尾はハッと我に返った。飛鳥は不適な笑みを浮かべていて、強い光を宿した瞳が言葉なく鷲尾にそう告げていた。鷲尾の顔にいつもの腹の立つ笑みが浮かび、腹を括ったのがそこにいる全員に伝わった。
黒服を睨みあげて、鷲尾がいう。

「絶対に、貴様等なんぞには教えん」

終わった。飛鳥は思った。自分達の任務は死によってここで終了する。
鷲尾と共に逝けるなら、何も怖がる必要はなかった。いっそ飛鳥は安らかな気持ちさえ感じていた。
黒服はギリ、と歯を食い縛った。鷲尾たちの勝ちだと奴にもわかったのだ。
黒服の銃口は再び鷲尾の額に向かった。

「三人仲良くあの世に逝け」

グッと息を止める。
大丈夫だ。この恐怖さえ乗り越えれば全てが終わる。耐えろ。耐えろ。





ドンッ





全身が痺れるような、長い長い空気の振動。鷲尾は額から血を吹き出し、絶命した。
たった一瞬が止まったように長く感じた。
鷲尾の身体がドサリと床に崩れた瞬間、再び時間が動いた。


「ああぁぁああぁあああ―――ッ!!!!」

悲鳴を上げたのは赤松。飛鳥はとめどない一瞬の悲しみのあと、これほどまでに冷静でいる自分に驚いた。
目を瞑って覚悟を決める。大丈夫だ、鷲尾がいる。怖いものは何もない。

「やめてやめて!!殺さないで!秘宝はサンドラ峠の神殿にあります!!」










え?





「神器はリスタードアに…!!井戸のなかです!!」




ちょっと待て。

なに。なにを。


何を言ってるんだ?





泣き喚きながら秘密を漏らす赤松を見ながら、飛鳥は呆然とした。機密情報を全て漏らし、それを聞いて部屋を出ていく黒服たち。自分達への拘束が解かれたことにも気付けなかった。



何が起こった。

「………赤松…?」

なぁ、目の前でめそめそ泣いてるこいつは、何をしでかしたんだ?



「ごめんなさいっ…ごめんなさい…!俺、怖くて……もうダメだと思って…!」

そうだ。もう終わりだった。
俺たち三人がここで死ねば、組織は使命を全うできたんだ。
そのために鷲尾は。





鷲尾。





殴った。
無益な暴力だった。もうしないと約束したがどうでもいい。約束した鷲尾は死んでしまった。



「てめぇええッ!!!!何したかわかってんのか!ああッ!?戦士の恥を曝したんだぞ!!鷲尾の死を無駄にしたんだぞコラァ!!!!」

頭に血が上っていた。かつての『白浪の飛鳥』になっていた。叩きのめすことだけ考えていた。
赤松の愛嬌のある顔はボコボコになり、青タンだらけの泣き顔はひどい有様だった。
何時間そうした。どれくらい殴った。実際はたった数分だったけど、何も知らない。だって誰も止めないから。
赤松はバカの一つ覚えみたいに「ごめんなさい」と繰り返していた。だけど飛鳥にはきっと聞こえていなかった。動揺が我を忘れさせていた。

「だって俺…っ、おれっ、じにだくながったんです…ッ!!」

「ッ」

振り上げた拳がピタリと止まった。顔を覆って嗚咽を漏らす赤松を見下げながら、飛鳥は歯を食い縛った。顔はくしゃくしゃに歪み、何かを我慢するように全身に力を入れた。やり場のない拳は迷った末に硬い床に思い切りぶつけた。

「この…ッ、ばかやろう………!!」

息に擦れた声は誰にも投げられず、ただ飛鳥の涙腺を緩ませた。ぼたぼたと流れる涙を止める術はない。拭ってくれた唯一の鷲尾はそこで二度と動かない。

二度と動かない。










『わしお、強くなるのは守るためなんだろ?わしおの守りたいものってなんだ?やっぱり戦士だからー、世界?』

『そんなものはない。世界が終わっても俺の知ったことじゃない』

『戦士がそんなこと言っていいのかよ…じゃあなんで戦うんだ?』

『死にたくないからだよ。弱かったら死ぬだけだ』

『えぇっ…なんだよそれ。かっこわりぃ…』

『かっこ悪いことない。死にたくないと思うのは当たり前のことだ。私たちは生きているんだから』



『飛鳥と会えたのも生きていたからだ。お前に会えて、私は嬉しい。生きていることに感謝できた』









「鷲尾ぉ………」

死にたくないなんて思えないよ。

だってお前もういないじゃないか。

もうやさしい言葉をくれないじゃないか。

ねぇ、また独りぼっちだよ。

鷲尾、俺どうしたらいいの?

教えてよ。
傍にいてよ。
人のことバカにした顔で笑ってよ。



ねぇ、動いて、鷲尾。





(もう動かないなんて知ってる)

(でも、さよならなんて嫌だよ)




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