大地の底の睦み。








(♂夢/ダイ冒険/ヒュンケル)



地底魔城の風は、壁の間を吹き抜けて得体の知れないモンスターの呻きのようだ。不気味さは恐怖心を生み、その音にじっと耳を傾けていると心地よく落ち着いていく。このまま地底魔城ごと飲み込まれてしまえたら、母体の羊水の中で死ねるような心地だろうかと、願望に近い妄想を馳せる。そんなモンスターを期待してはいないし、いないともわかっている。けれどそうなってくれたらこの世界はもっときれいでいれただろうにと思考の糸は紡がれて伸びていく。その思考の糸は果てが無いくらい長いものになりそうだったが、やがて音もなく先端が見えた。

「▽」

名を呼ばれ、暗闇から目蓋を開けると糸が消えた。部屋のドアが開く。通路から光が入ってきて、眩しさで▽は数度瞬きをした。光の中に人影が浮かび、細めた目を向けるとその人物は部屋に入ってきた。自分の傍までくると、逆光による影はいくらかマシになる。見上げた先にある顔は見慣れた男、ヒュンケルのものだった。

「どうしたの、団長」

自然と口元が緩んだ。問うとヒュンケルの手は▽の頭に伸び、軽く髪を撫でる。▽は猫がそうするように気持ち良さそうに目を閉じてその感触に意識を向けた。この男には何をされても心地よい。
問いは答えを求めたわけではなかったが、返事が来た。

「もうすぐパプニカに奇襲をかける。戦いに備えておけ」

ヒュンケルの言葉に▽は伏し目がちに目蓋を開けた。嗚呼…ここを離れなければならないのか、と離れがたい気持ちになる。ここを捨てて立ち去るわけではないのに。そう思うほどに、▽は地底魔城に愛着を持っていた。それと共に、葉が散るように思考が過る。

「あんたの故郷、本当に滅ぼしちゃっていいの?」

それも答えを求めての問いではない。これで否と答えを出す男ならば、▽はこれほどまでにヒュンケルに心酔してはいない。声が聴きたいからそう言ったに過ぎないのだ。




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