指先で君を感じる。








(♂夢/冷徹鬼/鬼灯/主人公は癖毛/アニメ二話までしか見てない程度の作品知識)



 夕飯を終えて鬼灯と一緒に食堂から出てしばらく、それまで黙っていた鬼灯が突然口を開いた。

「私も直毛なんですが」

「え?」

 食堂を出てから会話をしていなかったから、鬼灯の発言は俺の不意をついて、間抜けな声が出た。急に何を言い出すんだろう。しかし彼は思い付きを不意打ちで喋りだすようなやつではない。俺は記憶を遡り、鬼灯との会話を呼び起こした。

「…あ、さっき俺が癖毛が嫌って話してたやつ?」

 あんまり意識して話してたことではなかったから気付くまで少し時間が掛かったが、ついさっき食堂で話していたことだ。
 鬼灯と夕飯食べてたら、唐瓜と茄子がやってきた。普通に雑談していた中で、俺が唐瓜の髪質が羨ましいなみたいなことを言ったんだった。俺は癖毛で、髪質は茄子と似ている。別に心底コンプレックスを抱いてるわけではないんだけど、寝癖がつきやすいんだよ癖毛って。絶対毎朝あるもん。

「鬼灯の髪がサラサラだってのはもう重々承知してるよ」

「嘘ですね」

「あん?」

「私の髪に触ったことないでしょう」

 意外な発言を聞いて呆気に取られた。確かに触ったことはないけど、鬼灯のは触らずとも見ただけでわかるだろ。っていうか、鬼灯は恐れ多くて気軽に触れない。見た目子供でいい位置に頭のある唐瓜とは違うんだよ。鬼灯、俺より若干背高くて触りにくいし。若干な、若干。

「なんというか、気安く触れたくない」

「私は触って欲しいですが」

「んっ」

 変な声出た。こいつたまにイメージと違うこと言うから困る。
 部屋へ向かう足の速度はそのままだが、おかしな意識をしたからか鬼灯からの視線が突き刺さる。…何これ、触ったほうがいいのか?
鬼灯にちらと視線をやると互いのそれが重なった。いつもながら鬼灯はまっすぐこちらを 見てくるので目が合うと逸らせなくなる。俺がどうしようか迷っていると、鬼灯から腕を取られた。歩を進めているうちに立入禁止の立て札の目の前まで辿りついていて、腕を引かれてその立て札の奥まで連れて行かれる。鬼灯印の扉を通ると薬草の匂いがした。ひょいとベッドに投げつけられると俺はしりもちをつき、鬼灯がすぐさまベッドに片膝をついて俺の頭と首に手をやった。髪に指が通り、唇が額に触れる。短く声が漏れる。鬼灯の唇は、実は柔らかく気持ちいい。そのまま鬼灯は俺の体に触れたまま、顔の至るところに唇を当てていく。

「触って欲しいんじゃなかったのか」

「触るほうが好きです」

 鬼灯の香りが鼻腔を掠り、ああ、こうしているのが好きだなと、俺も密かに心地よく感じていたり。そうしていくうちに気分が出来上がっていく己を自覚したが、ただ触れ合うだけでこれ以上は何もしないというのも十分喜びだと思えた。背中に回る筋肉質な両腕や、首に掛かる息に酔いしれていく中、俺も鬼灯の頭に手を伸ばす。指先に触れた黒髪は細く柔らかい。俺が触って乱すのはもったいないなと思ったけど、手を離すことが出来なくて、俺達はお互いの感触に夢中になっていた。

 明日休みだったらいいのにと、心底思った。





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