魅惑旅行のお誘い。








(♂夢/冷徹鬼/鬼灯/『地獄不思議発見』その後/アニメ一話だけしか見てない作品知識)



「というわけで、この四日間は空けておいてください」

 夕飯から戻ってきて、開口一番旅行が当たったのだと話された。

「空けといて、とは?代わりに出勤しておいてってことでよろしいか?」

 ああ、はいはい、代わりに出勤して欲しいってことね、と受け止めて返答したのだが、どうもそうではないらしい。

「馬鹿ですか貴方は。話の流れから解るでしょう」

「話の流れを察して出勤して欲しいんだと思ったんだけど」

 ○がそう思った理由は、いつも入れ違いで休みを取っているからだ。何故なら二人同じ休みを取ってしまったら補佐官がいなくなってしまう。上司が頼りない故、鬼灯と○の二人が同時に持ち場を離れてしまっては仕事は溜まりに溜まってしまう。四日も相棒がいなくなってしまうのは負担が大きいが、たまの旅行なら大目に見ようと思う。しかし、鬼灯はどうも、一緒に旅行しようと言っているらしい。

「留守を頼むのならそう言います。空けておいてくださいと言っているのに何故代わりに出勤するという話になるんですか」

「出勤して欲しいからプライベートの予定を入れるなってことだと思ったんだよ」

「その誤解も解けたようなので改めてお願いしますが、さっき伝えた日程は空けておいてくださいね」

「やだよ仕事溜まる」

 迷うことなく誘いを断った○に、鬼灯はぴくりと眉間を痙攣させた。あ、怒ったと思ったが、これは引くわけにはいかない。溜まったところでどうにかならないことはないのだが、後々面倒なのが嫌いなのだ。もともと○は旅行が好きなわけではないし。

「いいじゃないですか、たまには仕事のことを忘れても」

「現実に戻った瞬間にがっかりするから俺は仕事を忘れたくない」

「そんなに私と旅行したくないんですか」

「いや、それは」

 そこを突かれると答えにくい。正直に言えば、四日も仕事から離れているというのに鬼灯と一緒に入れるのはかなり魅力的だ。いつも仕事上がりの数時間しか一緒にいられないのだから。しかし現実的に考えて、二人で同じ時期に四日も離れるのは、他の者の負担になる。決して行きたくないわけではないのだ。
 迷い始めた○を察してか、鬼灯が更に言葉を重ねる。

「私は○と旅行したいから誘っているんですよ」

「…そういうこと言う」

 この男は、どう言えば自分が折れるのかわかっているのだろうと、○は溜息を吐いた。額に手を当ててしばらく考える仕草をしたが、恐らくどうしたいのかもう答えは出てる。○はまた溜息を吐いて、やけくそというように吐き捨てた。

「あーもう、わかった。行くよ行きます」

「行きたいんですか?」

「行きたいです!鬼灯と一緒に旅行したいです!」

 やけくそだが、本音だ。無理矢理言わされないと本音を吐き出せないなんて面倒くさいやつだ。しかし、本音を言うと負けた気がするのだ。
 鬼灯はぽんと○の頭に手を置く。

「最初からそう言えばいいんですよ」

 満足そうにそう言う声は心を乱して、○は自分の表情が崩れるのを自覚した。

(くっそー…好きだなぁ)



 四日間の旅行なんて、おかしくなりそうだ。




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