明ける空は美しく広大で。






(♂夢/忍卵/現パロ/潮江文次郎/任暁左吉/年齢操作//)



バツイチもどき社会人主人公に惚れた文次郎。
はじめ尊敬だと思ってたけど、なんか違うみたいだった。

出会いはちょっと治安が悪い街。昼は人多いし夜も特別悪いわけじゃないんだけど、浮浪者が結構いる。置き引きとか、酔っ払いが外で寝てる間に財布盗られたりとか、窃盗被害が多い。
文次郎が大学の先輩に連れ回されて、帰り道に限界来てテナントビルの外で寝る。浮浪者から財布盗られそうになってるところで○が地下のバーから出てくる。追い払わないからには出られなかったので浮浪者を追い払い、文次郎も無視するわけにはいかなかったので起こそうとするが起きず、仕方なしに近場の公園へ運ぶ。おでん缶食いつつ、目ぇ覚ましたらさっさと帰ろうと思い起床を待つ。

「おぅ、起きたか」

「んん…なんだ、どこだ…?うっ…」

「おい吐くなよ?吐くなら便所行け。あとお前ホームレスにカモられてたぞ。一応荷物確認しとけ」

「…誰だあんた」

「通りすがり。道塞がれてたの開けるついでに連れてきた。お前さん起きたしもう帰るよ。確認したらお前もさっさと帰れ。もう電車動いてねぇけど」

「…何!?しまった…明日朝一の講習が………」

「………は?何お前学生?その顔で?」

「何だとっ!……っう」

「ガキがこんな時間までこんなとこで酒飲んでんじゃねぇよッたく…。あーもうめんどくせぇの拾っちまった」

初対面の、しかも酔っ払いで老け顔の男の学生を自宅まで連れていく気はなかったので、バーを梯子。気さくなママがやっているところで始発までいさせてくれる。山本シナの店。

シナに文次郎を押しつけて帰るなんて無責任なこともできなかったので、酒を飲みつつ時間を潰す主人公。文次郎はテーブル席のソファに座って仮眠。

「どうしたの、彼」

「拾った。学生だと」

「あら、そうなの。ずいぶんと面倒見がいいじゃない」

「引っ込みつかなくなっただけだよ。悪いな、こんなことに店使って」

「いいわよ、丁度話したいこともあったし」

「うん?」





明け方文次郎と別れて部屋に帰った○。シナから話されたことを思い出す。
同時に、かつて大学生だった自分も蘇ってきた。



当時、○には愛し合った女性がいた。大学で知り合い惹かれ合い、いずれは結婚をと思っていた。が、彼女は財閥の令嬢であり、いわゆる身分違いだったのだ。成績優秀であった○との交際は大目に見られても、結婚は許されなかった。しかしどうしても、二人は離れがたく、○は認めてもらえるよう勉強に精を出し、資格も多く取り、努力した。
卒業後は大手会社の内定も決まり、ここで地位を築けばと希望を見ていたところで、彼女が駆け込んできた。卒業したら父が決めた相手と結婚しなければならないと。もう縁談が進んでいると。

「私そんなの嫌!○以外の人と結婚なんて…絶対に嫌よ!」


二人は全て捨てて駈け落ちした。

その先の地にある小さな会社に勤め、二人はささやかに息を潜めて暮らしていた。○にばかり働いてもらうのは悪いから、と、彼女も事務職に働きに出た。お金が貯まったらまた遠くに行こうと、二人は笑った。

「○、私いま幸せ」

「俺も」


いずれ彼女は○の子を孕み、幸せは順調であったが、彼女の家が出した熱心な捜索によって駈け落ちから半年後、彼女は連れ戻されてしまう。

そして彼女は結婚した。


○はそれまで勤めていた会社を転職し、引っ越しをしてまた新しい地へと赴いた。結婚したからにはいつまでも自分の影を追わせるわけにはいかないと彼女との連絡を絶つ。

共通の友人である山本シナがときたまお互いの情報交換の橋渡しをしてくれる。

結婚後、子供はその人との間に生まれたということにして産むのを許してもらった。向こうの男性も、罪のない命を堕ろすのを反対して承諾している。

そして生まれたのが任暁左吉である。

血液型から父親と血の繋がりがないことを知り、自分と遺伝子の繋がりのある父親に興味を示している。



シナから話された内容はそんなものだった。

会う気はなかった。
関心がないわけではない。できることならば抱き締めて、「俺が父親だ」と言ってやりたかった。だけど、子供の親は夫婦であるのが然るべきなのだ。

ただでさえ彼女達の人生を掻き乱してしまったのに、これ以上何を荒らしていいものか。





「○、これこの間の子のでしょう?」

「は?」

「学生証。届けに行ってあげたら?」

シナから渡された学生証を見ると、かつて自分が通っていた大学の同じ学部。面倒くさいと呆れつつ、何かの巡りあわせを感じて翌日大学へ行く○。

規模が大きいため探す気は毛頭なく、恩師に会ったり新校舎の散策をしながら暇を潰す。
裏庭で樹齢百年を越えた木を見付け、思い出を重ねる。あの木の下で告白すれば恋が実るというジンクス。それを鵜呑みにしていた娯楽のない十年前。
結局自分達は別れてしまったけれど。

「あっ!」

声が投げ掛けられ、振り返ると文次郎がいた。そういえば学生証を返しに来たのだと思い出す。

「よう、朝一の講習は間に合ったか経済学部」

「な、なんで!」

「落としてっただろ学生証。届けに来てやったんだよ」

「ああ!」

「腹減ったな、学食は何処に移ったんだ文次郎」

「はぁあ!?」

案内してもらい、十年前振りに大学の学食で食事を摂る○。ついでに同じテーブルで食事を摂る文次郎。

「俺もここの学生だったのさ、経済学部。中退したけど」

「中退?何故?」

「駈け落ちした」

「か…ッ!?」

「連れ戻されたけどな」











「あなたが僕の本当のお父さんなんですか…?」


「父さんのこと、好きか?」



「お父さんが二人いたら、ダメなんですか…?」


「俺のほうが我慢できなくてお前のこと独り占めしちまう。だから言うな、んなこと」




「もう会わないのか?」

「言ったろ、父親は向こうさんだよ。俺はただの遺伝子の片割れ」


「好いた女が産んだ子供だ。例えば血の繋がりがなくても俺は傍で愛してやりたい。向こうの旦那も同じだろ。なら俺が出る幕はない」





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