恋豆。おまけ。









(恋のキューピッ豆腐。おまけ/兵助が色々崩壊)






みんな思ったであろう疑問。






「でも、兵助が一口で諦めるなんて意外だったなー」

雷蔵の問いに、兵助は箸を止めた。気付けば友人たちの目はみんな自分に向いている。
兵助も雷蔵の発言に、確かにいつもなら自分は食い尽くすまで引き下がらないだろうと思い初めて首を傾げた。何故だろうと考え始めると意外にも答えは簡単に出ない。お預けを食らって待たされた後の豆腐だったからということももちろんあるが、それだけではないと気付く。では何故かとさらに自問するが、明確な答えは出ない。

「なんだろうな…豆腐の味と食感を満喫しているときだったから、●の言葉に素直に従えたのか?」

「いや、僕に聞かれても」

何故か問いの矛先は八左ヱ門に向き、真剣な眼差しの兵助に八左ヱ門は漬物を口に運んで誤魔化した。ぽりぽりと大根を咀嚼する音が口の中から漏れているのを聞きつつ、兵助はまた考え始めた。「こうなると兵助は長い」という三郎の発言をきっかけにみんなは食事を再開した。


豆腐。豆腐だろ。
あそこまで頑なに豆腐を俺に渡そうとしなかったということは、●ももしかしたら俺と同じくらい豆腐が好きということか?いやしかし、俺に一口くれたぞ。俺だったらやらない。………いや●だったら、今日の恩もあるし、あげるかも………しれない、けど………。まあ俺と●の立場が逆だったらなんてことは今はいい。ええと、なんだったか。そうだ、何で俺がたった一口で引き下がったか考えてたんだ。なんでだ。豆腐と、●の声がなんだか幸せ絶頂、みたいな感じで、いやいや幸せ絶頂に●の声は関係ない。いや、関係ないか?●の声は聞きやすいし聞き心地もいいし、あれ?つまり豆腐×●=幸せ?なんだこれ。だめだ●の声が豆腐並みに幸せなものとしか思えなくなってきた。そうなのか?●は豆腐でつまり俺に幸せを与えてくれるもので………………。
………!


兵助が隣に座る八左ヱ門の肩を掴んだ。しがみつくように勢いのよいものだったため、力のバランスが崩れて箸のハンバーグは茶碗に落ちた。

「ちょ、なんだよ兵助ぇ」

八左ヱ門が少し落胆して愚図るように兵助を見やると、兵助は身を乗り出して輝いた目で八左ヱ門を見ていた。尋常ではない様子に八左ヱ門はビクッと肩を震わせ、怖いものを見ているように肝が冷えた。

「八左ヱ門………」

「な、何…?」

「●って良い奴かも…どうしよう八左ヱ門、俺ドキドキしてきた。●が俺に豆腐あーんって…」


兵助の突然の発言に反応できる人間は残念ながらその場にはおらず、八左ヱ門も戸惑っていたが目を泳がせつつもとりあえず反応しなければと考えていた。不自然に口に笑顔を浮かべて、やっとの思いで言葉をひねり出した。

「くれたのが豆腐だからだろ」


その後しばらく、○に対しての気やすさは兵助から消え、想い人から妙にきらきらした目を向けられてひどく居心地の悪さを感じる○がよく見られたそうな。




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