※病んでます
身体が動かない。
息が苦しい、声が出ない。
それらはただ単に体調が悪いだとかそういった理由からきているものではなかった。どうやら私は所謂、金縛りというやつにかかっているらしい。しかもそれは自然に起きたことではないからより質が悪いのである。
…そう、私はある人物によって動きを封じられているのだ。
目の前に立つ、神をも凌ぐ絶対的存在に。
「なまえさん、気分は如何ですか?」
嫌気がさすくらいに優しく穏やかな声でその人物は私に尋ねた。気分?そんなの最悪である。こんな目にあって気分は最高です、なんて言う奴はただのマゾだ。
「そうですか、私としてはてっきり貴女もその類いかと思っていましたが…」
どうやら違ったようですね、と人が良さそうに笑う。
…本当に最悪だ。勝手に私の心を読んだ上にマゾ呼ばわりときた。こんな人が神より上をいく界王神だなんて、天が認めても私は絶対に認めない。
「私に言いたいことがあるのなら直接言って欲しいものですね」
分かってるくせにそうやってわざとらしく聞くのね。私だって出来ることなら直接言ってやりたい。でも、それをさせないようにしているのはシン…貴方じゃない。そう訴えるように私は彼をキッと睨み付けた。
「そうでしたね…では、どうぞ」
シンが手を翳すと、鎧を着ているかのように重かった身体が突然軽くなり、私はガクンとその場に崩れた。まだ余韻は残るものの、さっきまでの息苦しさも消えている。私は呼吸を整えてシンに今の気持ちをぶつけた。
「っ、どうしてこんなこと…!」
「どうして?貴女を手に入れたかったからですよ」
「私を…?何それ、意味分かんない」
「言葉だけでは分かりませんか…」
そう言いながらシンは私の目の高さと同じ位置になるようにしゃがんだ。彼の漆黒の瞳が、私を捉える。
「では、行動で示すことにしましょう」
目を細めて厭らしく笑むシンの姿に背中がゾワゾワし、冷や汗が流れる。
…早く、早くシンから逃げなくちゃ。そんなこと分かってはいるけど、逃げようにも身体に力が入らないのだ。
金縛りはもう解けているはずなのに――
「おや、さっきまでの威勢はどうしたんですか?」
「う、うるさいっ…!」
挑発的なシンの言葉を掻き消すように私は大声を張り上げた。私はこんな人に怯えていると言うの?嫌だ、そんなこと絶対に認めたくない…!
「…そう、それでこそなまえさんです」
ゆらりとシンの腕が私へと延びてきて、肩を軽く押される。
口ではどんなに強がっても身体とは正直なもので。力の抜けきった私の身体はそれだけの反動で簡単に後ろに倒れてしまった。シンは私に覆い被さると、耳元でとんでもないことを囁いた。
「愛しています、なまえさん」
「…っ?!」
その瞬間、口を塞がれた。
容赦なくぬるりと舌が侵入し、深く口づけられる。逃げ惑う私の舌を捕まえてはソレに絡めたり、吸い上げたりと好き勝手に犯される口内。抵抗するにも人間の私が界王神に敵うわけもなく、されるがまま。息苦しさに耐えられず、酸素欲しさに口を離そうとするがシンはそれすら許してはくれなかった。
…結局、私は貴方から逃れることは出来ないのね。
身体が動かない。
息が苦しい、声が出ない。
目を閉じれば、透明な液体が頬を伝った。
哀縛り
(哀しい哀しい、愛の束縛)
20140713
初登場の時の彼はこういうイメージがあった(偏見)