どれくらい寝ていたのだろうか。
それすらも分からない程に自分は深い眠りについていたらしい。ゴジータは目線だけを時計にやり時間を確認すれば針は既に午後6時を指していた。



「5時間も寝ていたのか…」


別に暢気に昼寝をしていたというわけではない。
今朝、目を覚まして布団から出て立ち上がれば、突然酷いめまいに襲われた。おまけに視界もぼやけ、頭もクラクラする。まさかと思い熱を計ってみれば38度…立派な風邪である。しかしゴジータは特に気にした様子もなく、薬でも飲んで寝ていれば治るだろうと至って冷静だった。一通りやることを済ませ、再び布団に潜り目を閉じたのが最後。
起きたらこの時間だったというわけだ。



「それにしてもよく寝たものだな…」


額に手を当ててみればいくらか熱もひいたようだ。
念のために飲んでおくか、と机に置いてある薬に手を延ばそうとした時。部屋の外からドタバタと慌ただしく階段をかけ上がってくる音が聞こえてきた。不思議に思い顔をしかめるが、その足音はゴジータに正体を考える時間すら与えるつもりはないらしい。



「ゴジータっ!!」

「……!?」


バタンと大きな音を立てドアが開く。
現れたその人物を見た途端、ゴジータの心臓はこれでもかと言うくらいに跳ね上がった。
…驚くのも無理はない。
今、ゴジータの瞳に映るのは他の誰でもない自分の姿。
熱のせいでとうとうおかしくなってしまったのではないかと頭を抱えようとした時、ふと自分の腕を見てピタリと動きを止めた。

自分のものとは思えない、色白で細い腕に小さな手。
辺りを見回せば可愛らしい家具やぬいぐるみの数々。
そして部屋にある大きな鏡に映るのは少女の姿をした自分。



「(…そうだ、そうだったな)」

ゴジータの目の前に立つゴジータは自分であって自分ではない。あれは、なまえだ。そして、少女の…なまえの姿をしている自分こそがゴジータなのだ。



「(俺がなまえで、なまえが俺か…)」


こんなややこしいことになってから、もう3日が過ぎようとしている。一体どうしてこうなったのかは分からない。
とにかく一刻も早く元に戻る方法を見つけなければならないのだが、未だにこれといった手がかりを掴めずにいた。





「ゴジータ、具合はどうなの?」


なまえはベッドの傍に駆け寄ると心配そうに顔を覗き込んだ。息を切らしているところを見るとわざわざ走って此処まで来たのだろう。



「あぁ。随分と寝ていたからな、楽になった」

「本当?もう大丈夫なの?」


もう一度頷けば、なまえは安心して気が抜けてしまったのか、その場にペタリと座り込んだ。たかが風邪くらいで大袈裟じゃないか。そんなことを言ったら、本気で心配したんだからね、と怒られてしまった。



「…でも、」


そこまで言うと何故か急に俯いてしまったなまえ。
心配になり、今度はゴジータがなまえの顔を覗き込む。


「なまえ?」


「……本当は、本当はね」



なまえはそのまま、ぽつりぽつりと言葉を繋ぎながら喋り始めた。



「これは私が引くはずの風邪だったのに、それなのにゴジータに苦しい思いさせちゃってごめんね…」



まさかそんな事まで考えていたとは思っていなかった。
風邪なんてゴジータにしてみれば別に何の苦でもない。
それなのに自分のことを心から気遣ってくれるなまえの気持ちが何よりも嬉しかった。一体、彼女はどこまで優しいのだろうか。ゴジータはそんななまえの頬をそっと撫でるように触れた。



「…なんか、自分にされてるみたいで変な感じがするな」

「そうか?」


本当だって、と小さく笑いながらなまえは同じようにゴジータの頬に触れた。その手はひんやりと冷たく気持ちが良い。



「ね?変な感じがするでしょ?」


そう言いながらなまえは照れくさそうにふわりと笑った。
全く、不思議な話である。
顔は自分自身であるというのに、その表情はゴジータの好きな温かくて優しいなまえの笑顔だった。そんな彼女を見ていると、だんだん可笑しくなってきてしまい、つられるようにゴジータは自然と微笑んだ。

あぁ自分は今、なまえの顔でどんな表情をしているのだろうか?




なまえが笑えばゴジータも笑う。
それは今までと何一つ変わっていなかった。
例え体は入れかわったとしても2人で笑っていられるのならば、このまま戻らなくてもいいのかもしれない。
そんなことを密かに思ってしまうゴジータだった。





(もう少し、このままで)


20131104
かなり昔に他ジャンルで書いたものを書き直したものだったりします。



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