暇というものは時に憂鬱だったりする。


二時間目、自習。
静まりかえる教室に響くのはカリカリとシャーペンを滑らせる音に机の下で携帯をポチポチ弄る音、それから時々いびき。
授業修了まであと30分。…ああ、何て退屈なんだろう。

とっくに課題のプリントを終わらせてしまった私は暇をもて余していた。携帯でも弄っていればいい話なのだが、今日に限って家に忘れた私は大馬鹿者である。こんな時、いつも私の相手をしてくれる隣の席のトランクスは既に夢の中。
…退屈すぎてどうにかなってしまいそうです。



「(あーあ、暇だなぁ…)」


そんなことを考えながら、ふと窓の外を見る。すると授業中だというのに暢気に空を飛ぶ人物が目に入った。空を飛べる人なんてこの学校に私以外では二人しかいない。そのうちの一人、トランクスは隣でぐっすり。だとすると…


「(悟天のやつ、また上手いこと逃げたな…)」


ちくしょうめ、こっちは暇で死にそうだってのに…後でチチさんに言いつけてやるんだから!心の中で悟天にあっかんべーをして、目線を窓の外から時計へと移す。授業修了まであと20分、時の経過の遅さに私は何度目か分からない大きな溜め息をついた。
隣の紫頭を見れば、相変わらず気持ち良さそうに眠っている。…あぁもう、こうなったら私も寝てやろうじゃないか!
この退屈地獄を切り抜けるにはもうそれしかないと思う。うん、寝よう。では、おやすみなさい!そう勝手に決め込んで机に伏せた時だった。



『(何がおやすみなさいだ、この馬鹿者め)』


「!?」


突然、心に響く声。
それはこの教室に絶対いるはずのない人物のもので、驚きのあまり私はバッと思いきり伏せていた頭を上げた。その衝動でトランクスが少し動いたような気がするけど、別にどうでもいい。そんなことより、とキョロキョロ辺りを見渡しながら声の主を探す。



『(いくら探してもオレはそこにはいないぞ)』


『心に話しかけているんだ、いい加減覚えろ』といきなり叱られてしまった。

…あ、そう言えばそうでしたね。確かテレパシー、だっけ?離れた場所からでも人の心に話しかけられるんだとか。でも私みたいな普通の人間はテレパシーなんか出来ないし、それを当たり前みたいに言うのはどうかと思いますがね。



「(…で?私に何の用ですか、ピッコロさん)」


声の主、もといピッコロさんにツッコミたいことは他にもあったけれど、これ以上叱られるのはごめんなのでとりあえず本題に入ることにした。




『(…………)』

「(あれ、ピッコロさん?)」


何故か分からないけどピッコロが急に黙り込んでしまった。
え、もしかして私が真面目に自習してなかったから怒っていらっしゃる…とか?だとしたら冗談じゃない!確かに寝ようとはしてましたけど、一応課題のプリントは終わらせましたよ?!(ほぼ白紙ですが)それに授業開始5分で寝たトランクスよりは数倍マシかと。ましてや脱走した悟天なんかは魔慣光殺砲ものだと思いますね。



『(…いや、別にこれと言った用は無いんだが……)』


そこまで言うとピッコロさんは口ごもってしまう。どうやら怒っているわけではないらしい。少し間を置き、また喋り出したかと思ったら『だから、その、何だ…』の繰り返しで一向に話が進まない。普段は嫌ってくらいに容赦なくものを言ってくるのに今日はどうしたんだろうか。このままではラチが明かないので、そんなピッコロさんにこっちから言ってやった。



「(もう、何なんですか!!はっきり言って下さいよ!)」


『(だ、黙れ!ただ声が聞きたかっただけだなんて言えるか!!馬鹿!)』




……は?今、何て言いました?
私の聞き間違えじゃなければ、声が聞きたかった、だとか…



「(え、それってどういう意味ですか…?)」

『(…知らん!)』

「(ちょ、ピッコロさんが言ったんじゃないですか!)」

『(喧しい!お前はいい加減真面目に自習しろ!!)』



ピッコロさんは『この馬鹿者め!』と本日3度目となる馬鹿を大声で言い放つと、それっきりテレパシーが私の心に届くことはなかった。結局、私に何が言いたかったんだろうか。



『声が聞きたかっただけ』

でも確かにそう聞こえた。ピッコロさんの言葉が頭の中で何度も再生される。私の声が聞きたかった?それは、どうして?今になって込み上げてきた恥ずかしさに顔が火照る。



「…!!」


突然鳴り響く授業修了を告げるチャイムの音でハッと我に返った。隣で寝ていたトランクスがようやく起きたらしい。ムクリと頭を上げると目を擦りながら私に視点を合わせる。



「…もしかしてオレ、寝てた?」


自分の白紙のプリントを見て、参ったなぁと頭を掻きながら苦笑するトランクス。あれだけ堂々と寝ておいて惚けるつもりか。


「って、おいなまえ、顔赤いぜ?どうかした?」


「っ…!!」


トランクスに言われて、またピッコロさんの言葉を思い出してしまった。自分でもどんどん顔が赤くなっていくのが分かる。


「べ、別にっ!」


そんな顔を見られたくなくて、誤魔化すようにプイッとそっぽを向く。そうしたら何を感付たのかトランクスが妖しく笑った。え、もしかして気づかれた…?サイヤ人って読心術とか使えたっけ?!



「ははぁ、さてはオレの寝顔に見とれてたな?」



なんてな、と愉快に笑うトランクス。…あ、駄目だコイツまだ寝ぼけてやがる。




「ええい、この馬鹿者めっ!」

「いてっ!」


必殺チョップと、どこかの誰かさんと同じ台詞をこの寝ぼすけ野郎にくれてやった。





(メッセージは『馬鹿』3件)


20131009
ただテレパシー会話をさせたかっただけ。



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