俺はどうしたらいいんだろうか。
もう何度そう強く思ったのか分からない程に天津飯は酷く悩まされていた。
一体何故そんなことになったのか。
その原因は彼の腕の中で泣いているなまえにあった。
事の始まりは数十分前。
なまえが家に押し掛けて来たと思ったらどういう訳か、突然わんわんと泣き出したのだ。なまえが天津飯の家に訪れるのはそう珍しくはないが今日のような事は今までに無かった。
とにかく、このままではマズイ。
とりあえずなまえを落ち着かせよう。
天津飯はなまえを優しく包み込むようにそっと抱きしめた。前に餃子が怖い夢を見たとかで泣いてしまった時もこうしてやったらすぐに泣き止んだ覚えがある。
…よし、これでもう大丈夫だろう。
しかしそんな天津飯の考えも虚しく、なまえは一向に泣き止む気配を見せなかった。それどころか、寧ろ悪化したような気さえする。予想外の事態に天津飯は早くもお手上げ状態だった。
結局、どうすることも出来ないまま現状に至るという訳だ。
未だに天津飯の腕の中で泣き続けているなまえ。
何故泣いているのか、理由は知らない。
だがおおよそ見当はついていた。その理由は自分にあるのだろうと。もしそうならば、ちゃんと謝りたい。
天津飯は静かに口を開いた。
「なまえ、俺はお前を悲しませるような事をしてしまったのだろうか…」
武道家として修行に励む毎日。
なまえの話をちゃんと聞いてやったことがあっただろうか。
そんな自分に文句も言わずに見守っていてくれたなまえ。
自分は、彼女の優しさに甘え過ぎていたと思う。
「すまないなまえ、俺は…」
天津飯がそこまで言うと、それを遮るようになまえはブンブンと首を強く横に振った。
「ち、がうの、天津飯は、何も悪くない…っ」
呼吸を乱し鼻を啜りながら、消え入りそうなか細い声で違う、違うのとなまえはそう訴え続けた。
目の前で大切な人が泣いている。
あぁ、こんな時ヤムチャならどうするのだろうか。
俺はあいつのように優しい言葉をかけてやれるような男でなければ、女が喜ぶような事なんて1つも知りやしない。
「(しかし…、)」
いつも明るく笑顔を絶やさない、まるで太陽のような存在。
天津飯はなまえのそんな笑顔が何よりも好きだった。
これは勝手な願いかもしれない。けれどなまえには笑っていて欲しいのだ。
「なまえ、聞いてくれ」
「……っ、」
自分の腕の中にある小さな温もり。
それはこの腕を離してしまったら今にも消えてしまいそうな程に弱々しくて。離れないように、消えてしまわないように。天津飯の腕に力が入る。
「鼻くその秘密をそっと話くそう…!!」
二人だけの空間に天津飯の声は反響することもなく、ピタリと消える。部屋は静寂に包まれ、泣き続けていたなまえがようやく顔を上げた。涙やら鼻水でぐちゃぐちゃになったなまえと目が合う。
「…は、はな?え?」
「……!!」
ふと我に返りバッとなまえから離れる。
いつだったか、ヤムチャから教わったその言葉。
なまえに笑って欲しい一心で言ってしまったものの、翌々考えてみればまるで意味が分からない。こんな時に俺は何を言ってるんだ…!
しかし、時既に遅し。
やり場のない羞恥が込み上げ天津飯の顔はたちまち赤く染まっていき、なまえも目をパチパチとさせながらその様子を見ていた。
続く沈黙。
それを先に破ったのはなまえだった。
「…ぷ、あははは!天津飯、何それっ」
「い、いや、」
さっきまでの涙は何処へやら。
いきなり腹を抱えケラケラと楽しそうに笑うなまえ。
一体、何がどうなっているんだ。なまえのそのあまりの変わりように天津飯ただ唖然としていた。
「結局、天津飯は何がしたかったの?」
「俺にも分からない…」
「もう、何よそれー」
とっくに乾いてしまったはずの涙がまたなまえの目尻でキラリと光る。おそらく違う理由で溜まったであろうそれを手で拭い、なまえは天津飯に飛び込むように勢いよく抱きついた。
「へーんな天津飯」
胸に身体を預けるなまえの顔はどこか幸せそうに微笑んでいた。消えてしまいそうだった小さな温もりは今、確かに此所にある。
そうだ、俺はこの笑顔が見たかったんだ。
分かっていたはずなのに、何故たったそれだけのことが言えなかったのだろうか。そんな自分に苦笑しながら天津飯はなまえの背中にそっと腕を回した。
太陽はこの腕の中に
(もう、消えてしまわないように)
20141115
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