『貴方の手は赤く染まってますね。現世での行いは、あまり感心できるものでは無かったようですね』
この鬼灯という男は私の手に触れ 小さくそう呟いた。
急に冷水を浴びせられたように私の意識がぴんと背筋を正した。
『赤く、、』
染まっているとはどういう意味か。私の今いる場所が地獄であり眼前には美しくも人ならぬ鬼が立っている。
あぁ。やはり私は生前、誰かを。。
でも、幸か不幸か その記憶が私にはない。
思い出せない。自分に一体何があって一体誰をそんな目に。
『戸惑っているようですね。ここに来て平常心でいられる者は少ない。自分が置かれている状況を理解するのにも幾分時間がかかる事でしょう。ただ一つ言える事は貴女が醜い行いをし、ここに堕ちた。悪人である事は確かです。』
悪人。
初めて浴びせられたその言葉に全身の血の気が引いていく。
『貴女が報いるべき罪。その罪の重さに相当する地獄に、私が案内します。それが私の仕事。そのために貴女を迎えに来たのです。』
『迎えに、、、』
恐怖からか、絶望からか、
とめどなく溢れる涙に視界を奪われながら
そっと握られた手の微かな暖かみだけが私をここにとどまらせているようだった。
受け入れ難いその事実を目の前にして
本当は逃げ出したいのに
そっと鬼灯の手を握り返している事に
その時の私は気付けていなかった。
なぜだろう。
冷たく言葉を放つその鬼の手に
何かを感じてしまったせいなのか。