こんなに急ぎ走ったのは、何千年ぶりかと自分でも驚いた。

呼吸が乱れ、額から一雫の汗が流れ落ちた


しかし、そのかいあってか
桃源郷にはものの数刻で辿り着き、
いま私は白澤の家の扉の前に立っている。



本来なら今すぐに叩き破りたい所だが、なかなか手が出なかった
こんなに慌ててやってきたのに。

矛盾している。


扉を開けた先に広がる光景を目の当たりにするのが怖いか。

いや、それより何より
中からは物音ひとつしない。

不自然なほど静まり返っている。


桃太郎の話が誠であれば、彼女はきっと暴れ抵抗し、あの色狂いは必死でそれを制しようとしているはず。
ならばやはりこの静けさは何だ。





私はその違和感を打ち消すため、扉に手をかけた。













時が止まる。










そこには、服を引き裂かれ
露わになった肌を隠すかのように
小さくうずくまり、肩を震わせ泣いている彼女の姿があった。







そして、同じ部屋の少し離れた場所に
ふてぶてしく足を組み横になっている白澤の姿があった。









その光景を目にし、


私は我を忘れて白澤に飛びかかった。






『わっ! ちょっ!?鬼灯!?』






地獄まで鳴り響くような轟音と共に私の拳は白澤の頬をかすめて、そのまま壁へとめり込んだ。

壁に大きく穴があき、瓦礫がパラパラと床に散らばった。





『貴様。彼女に何をした。』



まさに鬼の形相で睨みつけた

私の問いに白澤は顔を青ざめさせて答えた。




『かっ、、勘違いしないでくれよ!!

そりゃあ、確かにあわよくばそうしようと思ったけど、、

でも、断じて最後まではしてないぞ!!

と、いうか 途中でそんな気も失せたよ!!


彼女、僕に触られながら

鬼灯さま 鬼灯さま って泣きながらお前の名前を呼び続けてて

なんかそれ聞いてて すごい冷めたよ!


そんなにあいつがいいのかよって!


だから、ほんと、手を出したのは悪いけど途中でやめたよ!


てか、別にいいだろ?!

たかが亡者じゃないか!!』







ドカッ



と、再び轟音が鳴り響き、

今度は白澤の反対の頬をかすめ、壁にまた大きな穴があいた。





『黙れ。私をこれ以上怒らせるな。』




その冷たい声を聞き、私の殺気に満ちた顔を見るなり、白澤は壁に空いた大きな穴から、尻込みしながら一目散にその場から走り逃げていった。

なんと愚かな神獣なのだ。


私は、ただただ 怒りに震えた。
















『ほ、、鬼灯さま。。』






彼女は小さく私の名を呼んだ。





『も、、申し訳、、ありませんでした。


仕事の途中で、こんな。。


役立たずで、、申し訳、、ありません。。』



肌を隠しながら、彼女は顔だけを僅かにこちらに向け
ぽろぽろと涙を流しながら謝罪の言葉だけをただ発した。




『どうか、、お許しください。


どうか、、見捨てないで。。』




声にならない声だった。


さぞ怖かったであろうに。
恐ろしかったであろうに。


その上私に詫びるなど。









私は、怯える彼女に近づき


震え続ける肩に背後からそっと
私の黒い着物をかけてやり

その上から、強く、彼女を抱きしめた。





『仕事の事はもういいです。
さぁ、あちらに戻りましょう。』







私の声に

彼女は、“はい”
とだけ小さく答えた。


















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