白澤という男は、感情を伴わない無機質な笑顔を向けながら私を組み敷いた。
『はは。震えてるの?なんて可愛いんだろ。』
身体を捩らせ逃げ出そうとする私の両脚を器用に自らの脚で押さえつけてきた。
その手際の良さが私の恐怖心を更に増長させた。
『きみ、鬼灯が拾ったっていう亡者だよね?なんだかんだ言ってあいつも好き者だね。もうあいつとは寝たの?』
一体この男は何を言っているのか私には全く理解出来なかった。
だが、それよりも“鬼灯”という名前を聞き彼を思い浮かべた事により、この絶望的な状況から何としても逃げなければと強く思い、更に激しく抵抗した。
『こらこら、暴れないで。せっかくの綺麗な肌に傷がついちゃうよ。大丈夫だよ。一緒に楽しむつもりでさ。鬼灯なんかよりずっと僕は上手いから、すぐに良くなるよ。』
もう泣かないと決めた筈だったのに、目から涙が溢れてきた。
なんという恐怖。
白澤は、ばりっと私の上着を引き裂き、露わになった胸元に、その唇を押し付けてきた。
生暖かい感触に身体中に悪寒が走る。
鬼灯さま。
鬼灯さま。
私は心の中で何度も彼の名前を呼んだ。
返事などあるはずないのに。
鬼灯さま。
身体から意識を切り離すように、私の身体を舐めまわす白澤から顔を背け、ぼんやりと窓のほうに目をやった
人影のようなものが走り去る姿が見えた気がした。
涙で視界が曇る。
一瞬、この男が鬼灯さまであったならと刹那的に思った。
そう思ったら、ますます涙が溢れて止まらなかった。