『等活地獄行きを命じる』
それが閻魔大王から彼女に下った命令だった。
どのような地獄かは、その時の彼女には想像もつかなかった事だろう。
涙も枯れ果てたようなやつれた顔をして彼女は顔を上げた。
『とうかつ、、地獄、、』
恐怖と絶望に染まった表情。
彼女は、閻魔大王の横に立つ私にそっと目をくれ、すがりつくような瞳で私を見つめた。またも弱々しく。
『この者の罪はどのようなものでしたか?何を殺めていたのです?』
私はその場で閻魔大王に問うた。
『う〜ん、と。彼女が殺めたのは彼女自身だね。現世での行いを観たところ色々と辛い経験をしてきたみたいで同情の余地はかなりあるんだけど、まぁ、結果は結果だからね。これも仕方ないね。』
なるほどそうゆう事かと、妙に納得した。
初めて見た時から、きっと彼女は生前
蟲も殺せぬような人間であったに違いないと思えたからだ。
全く邪気を感じなかった。
なのにどうゆう訳かこの地獄に堕ちてきた。
手を赤く染めて。
彼女にはこの事実は聞こえていないようだったが、
未だに虚ろな瞳で私をただ見つめていた。
『大王。この者の処分。私に預からせて頂けませんか?』
『え?なんで?』
『なんでもです。』
私の睨みにひるんだように大王は慌てて首を縦に振った。
『じゃあ、この鬼灯くんに任せる事にするから、彼の命令に従うように。先ほどの等活地獄行きは一旦取り消します。』
その言葉を聞いて彼女が少しは安堵したのかどうか、表情からは読み取れなかったが私を見つめ続けている事だけは変わらなかった。
私は彼女をどうしたいのか。
厄介ごとが増えただけだ。
偶然彼女に出くわさなければ、私は今も山積みの仕事を淡々とこなせていたのではないか。
だが、果たして本当に偶然だったのだろうか。
そんな違和感が私の脳裏をかすめていた。
『貴女、こちらへ来なさい』
ただ、確かな事は彼女を 血で血を洗う亡者共の跋扈する地獄に行かせたくないと思った事は 疑い様もない事実だった。
その時はまだその理由が何なのかは私自身分からなかったが。