そこはまさに城のような建物だった。どこか禍々しい空気の漂う、とても一人では足を踏み入れる事が出来ないであろう雰囲気を纏っていた。
『着きました。さぁ、入りますよ。こちらであなたに罪状等言い渡す形式となっています』
数刻前には既に離されてしまった鬼灯の手を、その時また握りしめたくなった。
進むのが恐い。とても。
一度足を踏み入れてしまったらもう二度と戻れない事は何と無く理解出来た。
『は、入りたくありません、、わたし、やっぱり、、』
思わず踵を返し逃げるようにその場を走り去ろうとした、しかしそれを待っていたかのように小さな子供が目の前にいた。勢いがついてしまった身体が子供にぶつかった。
『いたっ!』
白髪の男の子
頭からは三本の角が生えていた。この子も鬼のようだ。
『ご、ごめんなさい、』
咄嗟に謝るが、その小さな子供が見ているのは私の後ろだけのようだった。
『鬼灯さま!!頼まれていた仕事は無事終えました。唐瓜ももうすぐ戻ってくるはずです!』
嬉しそうに明るく話すこの子供を見て、地獄には似つかわしくない違和感を感じながら、この子供が鬼灯を敬い慕っている事はすぐにわかった。
そんな事を考えている間に
その場から走り去る機を逸してしまった。
『鬼灯さま、なぜここにいるのですか?仕事がお忙しいのでは?』
子供は不思議そうに尋ねた。
『その者を迎えに来たのです。』
その言葉で、初めて目があった。
『鬼灯さまが直々にお迎えに来られるとは、よほど大切なお客様なのですね!挨拶もせず、失礼しました!』
慌てて謝る子供に、なんと声をかけて良いかわからない。そもそも前提から間違っている。だって私は、、
『その者は地獄に堕ちた亡者です。』
鬼灯の冷たい声が空間を裂いた。
『え?亡者?、、では、鬼灯さまが何故、、』
子供はますます戸惑っているようだったが、鬼灯は意に介さず
逃げだそうとした私の手首を掴み、ぐいと引き寄せた。
『行きますよ』
またしても、鬼灯の手の暖かみが
私ですら忘れてしまったような私の存在をここにとどまらせているようだった。
漠然と。
この時には既に
この微かな暖かみの側に居られる事を心の奥で求めてしまっていたのかもしれない。