俺のなんで




オレのいっこ下の後輩は、見かけによらず、そりゃあもう出来たやつだ。



風呂上がりにそのままオレの部屋にやってきて、全裸で寝転がって電話してるけど、ふざけてるように見えるのは見た目だけだ。




「へえ…じゃあ明日学校で話聞かせてよ…うん、俺、そいつのこと知ってるし、誤解かもしんないしさ、そーなったらお互い辛いだろ?…ん、じゃ、おやすみ〜、あんま考えすぎんなよ」


「クラスの子?」「ん、そう、なんか彼氏ともめてるって……ってうお、メール溜まってんな」



レギュラーの座を維持するために自分に磨きをかけるのはもちろん、他人にもよく気を配る。


部内では手のかかるエース様と気難しい姫さん(とか呼ぶと、射殺されそうな視線を向けられるが)のお守りもすれば、後輩の面倒もよく見ている。



今の電話から察するに、きっとクラスでもそうなんだろう。


まったく、ほんとうによく出来た後輩だ。




「で、なんのメール?」


「んーと、クラスのやつから明日の小テスト範囲と、あとデートのお誘い…あ、これもだ、それと、1年から相談メール…これは直接行ってやるか」



身体を起こして返信しながら、とくに嫌な顔もしないでちゃんとオレの質問にも答える。やっぱりいいやつだ。



「は、おいデートってなんだ」

「ん?ああ、時間できたら遊び行こうってメールが3件。しばらく難しいからゴメン、また誘ってって返したよ」




こういう返信ひとつでも気を使う。どこまで優しい男なんだこいつは。

普段は上げてる髪を掌でゆるく掻き回してやると、そのまま体重を預けてくる。



「俺ヒデさんの手すきだな、…つうかアンタ俺のこと撫でるの上手ですよね」

ふいに顔を上げて、ちょっと笑う。流し目じゃなくてまっすぐ視線を合わせて。……普段はなかなかしねーけど、油断してるとこーいう顔をする(油断というか、リラックスっつうべきか?)




「撫でるって、動物じゃねーんだぞお前…」


「いやあ、よく雅さんに動物みてーにウロチョロすんな!って怒られっから」


「そりゃあの白いののとばっちりだろうが」


「ははっ、たしかに……すぐ終わっから、ちょっと待ってて」




いつも一緒に居るオレにまで気ィ使うことねーのに。なんていい子だ!

そう、こいつがここでケータイとにらめっこしてるのは、こいつが優しい証拠に他ならない。

そうだ、そんな自慢できる後輩を持ててオレは幸せだ。





ぱちんとケータイを閉じる音で顔を上げる。オレは出来た後輩のジャマをするわけにはいかないから、軽くカルロスを抱えたまま、雑誌を読んでいたのだ。


「終わった?」


「うん、すいません」
「あのな、謝ることねーだろ」


「だって、」




そうカルロスが言いかけた時、ばたーん!と無遠慮にドアが開いた。………同室でもねーのにノックもしねーような不届き者は、うちの野球部に一人しかいねえ。


「ねえカルロス、ちょっと手貸して」「うわあんカルロー!雅さんがひどいんだよー!」



と、思ったら2人居た。



「……どしたの2人とも」




「雅さんね、俺のこと置いて1年ピッチャーとミーティング行ってんだよ!まじ浮気だよね!俺以外のピッチャーとミーティングとかいらねーし!」「あのさ、これ取れちゃったんだけど直して」


エース様は例によって理不尽に旦那(ほんとは女房だけど)を糾弾している。白河の方は、制服だかユニフォームだかのボタンが取れたらしい。




「あー…はいはい、じゃあちょっと待ってな」一瞬呆れたような間があったけど、優しい後輩はお守りに行くことにしたらしい。先輩として、ここは見守ってやらねばなるまい。ましてや、オレは副キャプテンだからな、部の円滑な運営は最重要事項だろ。




だけど、するりと足の間から抜けようとするしなやかな身体を、オレは両腕でおもいっきり抱え込んでしまった。

「…んーと…吉沢せんぱ」「おい鳴、雅にはオレからメールしといてやっから、エース特権とか何とか言ってお前もそのミーティング行って来い。そんで白河、それは平井に頼め」






一瞬面喰らったような顔をしていた2人だったが、すぐいつもの調子に戻った。



「わざわざこんなこと翼君に頼める訳ないから、裸族のところに来たんですけど」

「そーだよカルロ貸してよ!」

「最近吉沢先輩そいつのこと独り占めしすぎなんですよ」

「そーだそーだ!!」




「てめぇらそれが本音かよ!!あのな、お前らみたいのがいっぱい居るから、全然独り占めどころじゃねーんだよ!早く飼い主んとこ戻れ!」

「わーん!顔こわい!」

「…相変わらず顔だけで人殺せそうですね」

「るっせーな!生まれつきなんだからしょーがねーだろ!出てけ!」




しばらくぎゃあぎゃあ言って、ようやく小悪魔2人が出て行った。



「ち、ったく、しょーがねえ…なあ?」

「や、ホントごめん…」




ですよねえ、って苦笑まじりに返してくると思ってたのに、全然違う返事が返ってきた。びっくりして見たら、カルロスのやつ、なんか叱られた子犬みたいな顔をしてる。




「おい、」「いや、本当はヒデさんのこと最優先にしないといけないんだよね俺…」

でもみんな大事だしほっとけねえし…




普段の飄々とした姿からは想像も出来ないくらい、肩を落として、本気で困った顔してる。なんなんだこの生き物…!

「あー!もう!」



まだちょっと湿ってる髪を、今度は両手で力任せにグシャグシャ掻き回した。


「うわっ、」


「オレはお前みてーに出来てねえから!もーなんでお前誰にでもそんな優しいんだとか、逆に危ねえだろとか!そこまで面倒見なくていーだろとか!…言いたくなっけどな!そこは気にすんなよ!んな顔しなくていーんだよ!」



「ムリだって!!」



なんだかもう泣きそうな顔してカルロスが顔を上げる。くっそ、オレは自分のカッコ悪さをごまかすために逆ギレしてんだっつの。怒ってんじゃねーんだよ。普段鋭いくせになんで気付かねーんだ!…いやそーじゃねえよな…。しかもこいつは、自分が怒られてこーゆー顔してんじゃなくて、オレの方が嫌な思いしたと思ってこんな顔してんだ。っとに、人に甘えさせてばっかで、お前はいつ甘えんだよ。



「いーんだよ、お前はそのままで。そんでオレのこーいうのは適当に流せ。そんな上等な頭じゃねーからすぐ忘れんだよ」


いいな、そう言って撫でてやると、ちょっと体の力が抜けた。すり、と顔を擦り寄せる仕種が猫みたいで、さっきはああ言ったけど、やっぱりちょっと動物みてえだな、と思う。



「オレがもうちょい大人になるまで、気長に待っとけよ」

手で顔を包んで上を向かせたら、はい、と柔らかく顔が笑った。




「…そのかわり、そーいう顔すんのはオレの前だけにしとけよ」







(へ?どんな顔?)

(なんでそーゆうとこだけ無意識なんだてめぇー!!)



title bySNOW STORM



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吉カル。

カルロスを溺愛していて、独占欲の塊で、でも素直に言えない吉沢が好きなので書いてみた。

ちなみに、カルロスはそんなんお見通しです。


カルロスは普段は吉沢先輩呼び、2人だとヒデさん呼びという設定。

鳴ちゃんと白河は、最近お兄ちゃんを取られて淋しいモヨウ(笑)


2010.0330



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