「鳴さんっ」
「成宮先輩、」
「成宮さん!」

練習が終わり寮に戻る頃合いになると、鳴の周りにはいつも自然に人だかりが出来る。

ちょっと前に新入生が入ってきてからは、その輪はほとんど1年生だ。

名門稲実のエースで2年。チームの中心でありながら、いい意味でも悪い意味でも分け隔てなく接する鳴は強面の先輩たちと違って近づきやすいんだろう。

合流しようと近づいたカルロスは、1年生たちを眺めて思った。

「鳴さん、狙ってる子おとすコツとか教えてくださいよ!」

1年生の中でも、わりとお調子者のやつが鳴に軽口を叩く。

ずいぶんきゃあきゃあ騒いでると思ったら、そんな話をしていたらしい。

1年生からは、稲実のエースともなれば女の子も狙い撃ち、だと思われているようだ(あ、狙い撃ちじゃ打者か。まあ、クリンナップだしいっか)

「……」

一緒に鳴のもとに向かっていた白河は、ついと方向を変えてまっすぐ寮の方に向かってしまった。

カルロスは、一瞬、どうしようか迷って白河の方と鳴の方を交互に見たが、やがて軽くため息をついて白河に続いた。

「鳴、一緒じゃなくていいのか?」

「お前こそ、1年生あのままほっといていいのかよ」

「…いやあ…何事も経験かなあ、と思って」

「だよね、さ、早く風呂入ってメシ行こ」





一方ブルペン付近。
相棒の原田は先に戻り、成宮と1年生だけが残っている。

「えー、落とす方法ー?」

「そうっすよ」

「まあ鳴さんなら、わざわざ狙い撃ちしなくても、向こうから来るよなあ」

「いやいやいや、ねーよそれは!」


普段謙遜などしない鳴が大慌てで否定する姿に、1年生たちがちょっと驚く。

きっと、まーね!俺エースだもんね!といういつもの反応を予想してたに違いない。



「え…」

「もー全っ然気づいてもらえないしさ、アピールして猛アタックして、やーっと手に入れたんだよ!」

「マジっすか!」

やっぱ鳴さんすげえ!さすがエース!と沸き立つ後輩の中、いやあ〜、と照れる鳴。



「もーありとあらゆる手を使ったかんね、直接言うのはもちろんだし、いつも一緒に居るよーにしたし、メールもちょ〜頭使ってさあ、」

「あ、ほらやっぱメールだよ!」

「…そーだよなあ、やっぱ会う時間限られるし…」



「え、なになに、どしたの?」

「いや鳴さん、こいつクラスで狙ってる子いるんスけど、練習あるし寮だしで全然仲良くなれてないんすよ」


「しかも口下手だしな!」


「るっせーよ!つったって何話したらいーのかとか、お前らだってわかんねーくせに!」


「…まあ実際メールもあんまやんねーしな〜」



「へ〜、そーなんだ。…あ、じゃあさ俺が送ったメール見せてあげよっか!」


「「「見てえ!!」」」



1年生の声が元気よくハモったのを受けて、鳴はパチリとケータイを開く。「はい」





“雅さんへ

今日も練習キツかったね

明日は練習試合で雅さんと組めるの、ちょ〜たのしみ

おれ、ずっと雅さんと組めるように、一生けんめい投げるね

じゃあ

めい






「…………」

「はーい、そろそろ帰ろうぜボウヤたち」

「あ、カルロー!」

場が静まりかえった瞬間を見計らって輪の中に入る。

……1年生たちが鳩が豆鉄砲喰らったような顔していて、実にたのしい。うん、素直が一番。

「一緒に行こうぜ、って言いてーけど鳴、雅さん呼んでたぜ、先行きな。片しといてやるから」

「うわほんと!?やべーカルロだいすき!」

ちゅーしてやるよ!と飛びついたあと鳴が走り去ると、1年生の視線がばっとカルロスに向けられる。

「…あの…、」「ま、そーゆーことだから。すぐ慣れるすぐ慣れる…ただ、」

恋愛指南は、翼くんあたりにしてもらった方がいいと思うぜ?あ、別に俺でもいいけど。

「部内恋愛してーなら別だけどな」

「いやあの…カルロス先輩にお願いしたいです」「俺も」
こうやって稲実野球部では雅鳴の洗礼を受ける。

(そしてあんなこと言ったけど、俺も翼くんも絶賛部内恋愛中だ)




……青いよ?





title by SNOW STORM



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ぶっちゃけ、鳴ちゃんのデコメを出したかっただけです(笑)


2010.0330


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