不可侵の起源・1



新宿歌舞伎町にある「club Red Ace」は、華やかに着飾ったキャストが男性をもてなす、いわゆるキャバクラだ。



キャバクラだから、露出の多いドレスは着ても、基本的におさわり禁止。
お客さまは、あくまで女の子を酒の肴に会話を楽しんでくださいね、という趣旨である。





そうは言っても、酒が入ってテンションの上がったおじさんたち。そうお上品に楽しむわけもなく、やっぱり隠しきれない下心が、うっかり胸の谷間ばっかりに熱い視線を送ってしまったり、ちらりと見せる美脚につい手を伸ばしたくなってしまったりするわけで。



見せはするけど見るだけね、という女の子と、触りたいけどがっつくのはみっともないという男心の攻防が、毎晩店で繰り広げられている。



楽しみ方は人それぞれ。
単純に女の子と飲みたい客、あわよくば…という期待を抱いてくる客、気に入った子を口説く擬似恋愛を楽しみたい客、しごくゆるい一定のルールを守れば、あとはキャストとゲストのやりとり次第。


この「club Red Ace」も、当然ながらそういう店だ。


ということは絶対的な前提として、キャストは女性である。


男女の関係を求めて客は来るのだから、そのニーズに応えるのが店の義務である。



にも関わらず。




「ねえねえ、聞いてよ!今日俺さあ、ひとりで2時半には起きたんだよ、すごくない!?」

「すごくないって、お前、俺たちはその時間絶賛仕事中だぞ!すごくねえよ!」

「だって俺昨日は家帰ったの5時だよ!もう今日だよ、寝たの8時半だよ、でも2時半にはおきれたんだよ、スゲーじゃん!」

「6時間は寝てるじゃん、平均平均」

「ちーがうよ!朝まで起きてる方がぜったい疲れるもん!10時間は寝たい!」

「寝すぎでしょ、それー。仕事しなさい仕事」

「わーん!今まさにしてるじゃん!俺がサボってるってゆーの!?お酒も作ったしタバコも着けてんじゃんー!」

「鳴さーん、すいません鳴さんお借りします」

「あれ、行っちゃうの!」

「ほらねー!俺のこと労らない罰だし!もう戻って来てあげないもんね!」

「…しょーがねえなあ…早く帰ってこいよ。…帰ってきたら好きなもん頼めよ」

「え、いーの!まじ!」

「はいはい、がんばっためいちゃんにご褒美あげるよ」

「だよね、俺がんばったもんね!じゃあ翼くんのパフェがいーな!今日のスペシャル!」

「いーよ、そのかわり早く帰ってこいよ」

「はーい!じゃ、またね!」





「ねえ樹ー、おれ早く今の席戻りたい!」

「ダメです。ご指名かぶってますから、皆さん平等に回します」

「え〜!俺がパフェ食べ損ねたら樹のせいだよ!翼くんのパフェたべたい!」

「ていうか3卓でさっき頼んだフルーツが出てますよ」

「あ、ホントだ!イチゴあるかな〜」




席から席へ渡り歩くこの店のナンバーワンは、口調からわかるとおり、れっきとした男性だった。




華奢な体つきに、白い肌と白金の髪、小振りな顔の中で大きな瞳が人目を引く、美形といって差し支えない少年だったが、逆に女性特有の柔らかさはそこにはない。


何度もいうように「club Red Ace」は男性全般向けのキャバクラであって、決して特定の趣味を持った人達をターゲットにした店ではない。


だが、どうしたわけだかこの店のナンバーワンは、この男、成宮鳴だった。



他のキャストと同じようにドレスアップはするし、気が向けばウィッグなんかもかぶって完璧に女装してみたりもするが、女の振りをしているわけではないし、男であることを隠す気もない。



でも鳴は誰かに「今何してんの」と聞かれると、「キャバ嬢」とか「夜のちょうちょ」とか答えるし、実際現状はそれ以外言いようがない。




いろいろな噂が広まって、あるいは怖いもの見たさ、あるいは冷やかしで、多くの客が鳴のことを見にこの店を訪れたが(なかには何も知らないで来る客も居るけど)、結局ほとんどの客が鳴を目当てにまた戻ってくる。



「おとこの子が女装してやってるんでしょ?だったら初回のワンタイムは安いからさ、ちょっと見てみようと思って」



そう言って入ってきて、結局何回も延長する客が後を断たない。


しかし、さすがにいくら恋人の原田が店長を務める店だとはいえ、鳴だって最初からキャストになるために入ったわけではなかった。


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このパラレルの鳴たちは、たぶん高校卒業したくらいの年齢だと思います。

そんで、ここの稲実は全寮制の男子校とかですきっと。

後半はもっとバタバタします多分。


10.02.14







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