ストロベリーセレモニー |
おれ、よくわかりやすいって言われるんだよね。怒ってるのも喜んでるのも、スキも、キライも。 当然じゃんか。 好きなら好きって言いたいし、それが間違ってるとか資格がどうとか、考えたこともない。 そんなの、傷つきたくないからって引っ張ってきた言い訳だと思う。 自分の気持ちが受け入れられなかったら傷つくから、それが怖くて言葉に、態度に出せないだけじゃんか。 そんな最初っから負けたときのこと考えて行動するようになるなんて、絶対にいやだ。 成宮鳴の行動理念は、だいたいそこにあった。 やるなら勝って当たり前。 上手くいって当たり前。 1度でうまくいかなくても、2度目がある。失敗したら、成功するまでやればいい。 およそ見た目からは想像もつかないようなタフさと負けず嫌いさで、鳴は輝かしい道を作り上げてきた。 それは特待生として、今春、名門稲城実業に迎え入れられた野球に関してもそうだったし、もうひとつ、恋愛にしてもそうだった。 美少年の部類に十分入る容姿にも恵まれているけれど、鳴の場合、この容姿をどうやって使うかという才能の方に恵まれたのだと思う。 どういう風にその大きな瞳で見上げたらいいか、どういう風にその小首をかしげたらいいか、どんな風にならおよそ野球少年には似つかわしくないその白い肌で魅せることができるのか、鳴は全部知っていた。 「だからあ!どーして雅さんってばあんななの!?おかしくねえ!?」 「まあ、それでもあと一息だと、俺は思うけどね」 「うそばっか」 「ホントだよ」 教室の一番後ろの席の、すぐ隣の窓枠にもたれ掛かって、今日何度目かの愚痴を、カルロスに零す。 鳴の席は身長の関係で一番前だから、二人で話すにはあんまり落ち着かなくて、毎回鳴の方がカルロスの席まで移動してくる。 ベランダに出て話す時もあるけど、窓から外を眺める方がなんとなく好きで、ここ最近二人の指定席は校庭側の、一番うしろの窓際だった。 ふわと入ってきた風は、土埃とお日様の匂いがする。今日もいい天気で、全く部活日和だよ、と腹立たしい気持ちになったのは、自分の心が全然晴れ渡っていないからだろう。 この春稲実に入ってきて、鳴が恋に落ちたターゲットは、とんでもなく難関で、いまだにほだされる気配が見えてこない。 捕手と投手という間柄上、悪くない関係ではあるのだけど、絶対にそれ以上には進めないのだ。 こんなに隙のない相手は、初めてだった。 絶対に先輩と後輩、あるいは投手と捕手という関係を崩そうとしない。 褒めてもくれるし、笑顔も向けてくれる。軽口も憎まれ口も叩くのに、向こうからは触れてくれるのに、なぜだか鳴からは触れられない。 最初は見た目通り色恋沙汰に疎いが故の鈍感だと思っていたけど、どうやらそれだけではなさそうだと分かってきたのは最近のことだ。 「……ホントは、やなのかな」 「珍しいな、ボウヤの弱気は」 ここまで膠着状態が続けば、もともと我慢強くない鳴のこと、参ってしまうのも無理はなかったが、それでも口に出して言うのは珍しいとカルロスは思った。 「雅さんがさ、なんか自分で距離が縮まらないようにしてんのは、なんとなくわかる。それがわざとなのかそうじゃないのか、は、わかんないけど」 問題は、なんでそうするのか、だ。 責任感の強い彼のことだから、後輩の投手相手に滅多なことはできないとか、そもそも男同士で有り得ないとか色々考えてはいるのだろうが。 「おれは、雅さんがおれのこと好きなのかキライなのか、それが知りたいんだよ」 カルロスは、最近の雅さんは前と確実に違っている、と言ってきた。鳴を見る表情が、違うんだそうだ。 あれは、せめぎあってる顔だよ、とカルロスは言う。だから、あと一息、だって。 カルロスは優しい男だ。優しいから、下手な慰めはしないし、必要で、うそのない言葉だけを選んで言ってくれる。 だから、彼が言うならきっとそうなんだろうなと思いながら、鳴にはどうしてもその変化が掴めなかった。 一番知りたいものに限って自分ではなかなか分からないのが、ある意味恋の皮肉なルールでもあるらしい。 今までそんなルールを飛び越えてきた鳴だったが、ここに来て初めてその重さを味わった気分だった。最近は、そんな重さが耐え切れなくて、こうやってグチとも弱音ともつかない言葉をカルロスに吐き出してばかりいる。 はあ、と絞り出した声は、大きさにそぐわない重さを伴って、カルロスと鳴の間を埋めた。 こうやって愚痴をこぼすとき、自分が弱みを曝しているみたいで、話している相手の顔は、見ない。 今も、カルロスのとなりで、ただ目の前にある窓に向かってしゃべっていた。 それを知っていても、カルロスはだいたい鳴の方を向いて、黙ったまま話を聞いている。それが有り難かったし、カルロスになら甘えても、許されると思っていた。それが、カルロスに弱みとも取れる愚痴を零す、一番の理由だ。 だって、おれら同じだからね。 ふと、顔を向けたらカルロスが、じいと外を見ている。 普段こうやって沈黙のあと顔をあげれば、だいたいカルロスと視線がぶつかるから、珍しいなと思ったのもつかの間、校庭に2年生のジャージを見つけて納得した。 普段と変わらない、無関心そうな視線の中に、同じ痛みを抱いた光がよぎる。 それは一瞬だけど、その光が過ぎても、カルロスは目を逸らさなかった。 同じ痛みを知ってるこいつになら、別に打ち明けたっていい。 相変わらず校庭に視線を注ぐカルロスに、一番必要な言葉を言ってやろうと思って、鳴は1歩、近付いた。 ストロベリー セレモニー title by Largo ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 鳴ちゃん視点から。 時系列的には「恋をしてる〜」より前だけど、話の順番としては後です。 雅鳴もジリジリしてる。 カルロスより鳴の方が恋愛偏差値高いかも。というか、恋が多そう(笑) 今は雅さん一筋ですが。 2010.1021 |