お星様みたいな金平糖

目当ての人たちがいないかと不安半分で階下に降りた夜にとって大変嬉しいことに共有2階の共有ルームでパズルをしていた駆と恋が、音で気が付いたのか同時に顔を上げて「夜さん!」と元気な声を出した。
誰もいなかったらどうしようかと思っていたので足取り軽く残りの階段を下りた夜をそわそわと待つ二人の姿は主人を待つ犬の様で夜の口からつい小さく笑みが零れた。きっとその『待て』の耐性の一番の理由は夜の手の中にある袋のせいであろうと予想が出来るから余計なのかもしれないけれど。

「こんにちは夜さん!今日はお休みですか?」
「うん、今日は午前に撮影があって、あしたの朝地元に帰るからそれまではオフだよ」
「お疲れ様です!俺と駆は今日まるっとオフなんですよー!」

三人しかいない部屋でも二人が口を開けばぽんぽんと会話が弾み、あっという間に騒がしくなるから不思議だ。
プロセラメンバーだって明るい人は多いけれど、意味深に微笑んでいる隼や、懸命に話を聞いている涙、上手に相打ちをする郁と、上手く会話を盛り上げることが出来ない自分とどちらかと言うと自発的に話をするタイプは少ないような気がする。
陽や海さんが話題を振って盛り上げることはあるけれど、陽も話の流れによっては聞き役になってしまうし、恋や駆のように溢れるように言葉を繰り出すこの空間はなんだか新鮮だ。
そういえば新が恋のことを「歩く騒音」なんて言っていたりもしたんだったか。
騒音と言うには楽しくて、それでいてちゃんと相手の言葉をひろってくれる恋は自分でも言うようにMCが上手いし、あれは新なりの…本当に分かりづらいが新なりの、褒め言葉だったのかもしれない。
 そんな盛り上げ上手で話し上手な二人が、会話に区切りをつけたのかピタリと会話をやめ、ただじっとこちらを見ていたので、自分はなにかまずいことでも言ってしまったのかと一瞬焦ったが、そういえばお土産を持ってきたのだったと手の中の袋を二人の前へと差し出す。
分かりやすく夜の手の動きを追う二人の視線に微笑ましい気持ちになりながら「お土産だよ」と袋を二人の手の中へと落とせば、パァ!と効果音が付きそうな程に二人の顔に喜色が満ちた。こういうところは少し涙に似ているかもしれない。

「開けても良いですか!?」
「どうぞ。俺もスタッフさんから貰ったんだけどね」
「なんか可愛い袋だ!モテ袋だ!」
「え、なにその袋、逆にモテなさそう」

再び騒ぎ出した二人も袋の中からコロンと十粒ほどのそのお菓子を取り出した瞬間には話をやめ、代わりに打ち合わせでもしたかのような感嘆の言葉が揃って共有ルームに響いた。

「金平糖!金平糖ですよ夜さん!」
「久しぶりに食べるわー、金平糖」

手の中の様々な色の金平糖をつつきながら二人が夜にしきりに俺をしては、また金平糖をつつく。
あまりにも嬉しそうにしてくれるので「食べないの?」と言うのも無粋な気がしてしまい、夜はポケットに入れていたもう一つの袋からも追加の金平糖をそれぞれの掌に載せた。

「俺は現場で食べたから、あげるね」

きっと食べたがるからと思うから新には内緒だよ?と口元に人差し指を持っていけば首が取れてしまうのではないかと思う程力強い首肯が返ってきた。「新になんてぜってーやらねー」と恋は言うが、駆は少し悪い気がしているのか手の中の金平糖を密かに少しだけ袋に戻していた。
そんな駆に気づかなかったのか、気づかないフリをしているのか、再び手の中の金平糖をつついていた恋が、突然「ああ!!」と声を上げてそれはそれは嬉しそうに顔を上げる。

「ねぇねぇかけるん!これ、金平糖!俺たちみたいじゃんね!?」
「え?小さくて食べられる甘っちょろい奴らってこと?」
「なにそれ怖い!そうじゃなくてさ」

ほら!と手の中の金平糖から青、黄緑、黄色、桃色の粒を取り出してにこにこと笑う恋に駆は首をひねって不満顔だ。

「色足りないじゃん、馬鹿恋」
「ちっがーうー!そうじゃなくてさ、ほら金平糖ってキラキラで、元気になって、幸せになるじゃん!?」
「あー、そうだねぇ俺たちの目標だもんね、ちっさいところもそっくりだよね、新人だし」

色は足りてないけどね、と付け加える駆に恋は少し気にしていたのか「…紫と金は無理だろ」と顔をそらす。そんな二人のやり取りに今度は夜が思わず首を傾げた。

「金平糖が、目標なの?」

自分でもおかしなことを言っているなぁと思ったのだが、夜の言葉に立ち直ったらしい恋が「はい!」と元気な声で応えてくれたのでおかしいと思っていた自分の方がおかしいのかもしれないと、なんだかもうよく分からない気分だ。

「初めてグラビメンバーで集まった時に決めたんです、どんなグループにしたいかって」
「そんで、俺がキラキラしてて、みんなに笑顔とか元気とか幸せとかを届けるアイドルになりたいって言ったんです」

その時に事を思い出しているのか、穏やかな顔をした二人が「な?」とお互いに顔を見合わせて笑いあう姿が夜には少しだけ遠かった。何時も一緒に遊んだり、働いたり、馬鹿をしたりするグラビのメンバーはそれでも確かに自分たちより1年先輩であったのだと実感したからかもしれない。
夜たちのはじめましては隼の存在や、今よりも少しだけ距離が遠かった涙のこともあってそんな具体的な話をすることはなかったので、余計にだ。始がリーダーを務めているからかグラビはなんだかんだと言いながらもまとまりが良く、筋が通っている。
だから逆に、その目標に少しだけ違和感もあったりする。

「始さんたちにしてはふわっとした目標だね」
「まぁ考えたのは恋ですからね」
「うっ…どういうことかけるん!」
「でも、葵さんも言ってました、そういう夢のある目標の方が良いって」

きっとそれもグラビなんですよね!とつついていた1つの金平糖を口の中に入れた駆がその甘さに「幸せ」とこぼしたのがなんだかストンと夜の中で納まって、先ほどまでの違和感が綺麗にどこかへ行ってしまった。
曖昧で、だけどちゃんと形になる夢をグラビの皆は一緒に目指して、みんなで楽しみや幸せを共有しているのだろう。
それは、とても、とても綺麗で、少しだけ羨ましいことだなぁと夜は思う。

「俺たちも、そんなアイドル…目指せるかな」

だから思わず零れてしまったその言葉に、しまったと思うより早く二人が食いついた。

「むむっ、プロセラには負けませんよ」
「兄弟でありライバル!ですからね!」

二人の顔は楽しそうで、でもちゃんと真剣で、自分もこんな風になれればいいと思いながら、まずは少しだけあやかろうと恋の掌の上に転がっていた黄色の小さな金平糖をつまんで口の中へと転がした。

「…うん、負けないよ、俺も、みんなも」

口の中で溶かした小さな星は、確かに幸せの味がした。




プロセラは嵐だから無秩序に見える一個集団


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