夢の中で
「子守唄を歌え」
体調が少しばかり良くなかったので一目のつかない木の下で休んでいた郭嘉の元に、いつの間にか小さな影が落ちる。顔を上げればそこには敬愛する主がふんぞり返っていたのですぐさま拝手の体をとればすっと片手を上げることで止められた。
「良い、それよりも郭嘉、子守唄を歌え」
そして冒頭の言葉へ戻る。
その小さな体をぽすりと郭嘉の体の前へと落とし、胸にもたれる様に頭を預けるその姿にくすりと郭嘉は小さく笑った。今更をそれを失礼だと怒るような方ではない。
「おやおや、夏候惇殿の子守唄では不服ですか?曹操殿」
結っている髪を崩さないようにその髪へと指を通せば表情こそ見えないが弾んだ声が「うむ」となにやら楽しげだ。詳しいことまでは分からないが仕事から逃げてきたか、夏候惇と仲睦まじく言い争ったあとなのだろう、常ならば殿の一番近くにいるのは彼の人の役割なのだから。
「ですが、困りました。私には詩のことなど分かりません」
「女を口説くときは歌うように紡ぐその口が何を言うか」
「言葉と詩ではまた違いましょう」
申し訳ありませんと髪へと通した手を止めることなく言えば、「良い」と変わらず楽しそうな声が跳ねる。
「ぬしの得意とする詩で良い」
「ですが、」
「その英知を聞かせよと言っている」
にやりと笑う顔がこちらを振り向き、思わずぽかんとあっけにとられた顔をさらしてしまう。良い顔だと小さな主が嬉しそうに郭嘉の手を取って遊ぶように握った。
「得意であろ?」
戦も酒も生も遊ぶように、歌うように。それが郭嘉であると曹操は知っているのだ。
そのようでいいのならば、望まれるならばいくらでも。
「ふふ、寝かせませんよ?曹操殿?」
「望むところよ」
それでは、と広い荒野と書ける兵士たちを描きながら郭嘉の口から紡がれるのは子守唄と言うには物騒で、しかしどこまで生の色に満ちた、曹操の為にのみ作られた世に二つとない曹操の宝であった。




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