春を告げる君の音色
いってらっしゃい、いってきます、と尾浜の背中に腕を回して雷蔵はその暖かさにほうと息を吐く。吐き出された息は冬の空の下で白く浮かんで消えた。

忍術学園の冬休みは昨日からで、雷蔵も部屋の掃除を済ませて今日やっと出発となり、まだ学園に残っている友人たちに暫しの別れを告げに回っていた。
自分と同じく部屋の掃除をしていたらしい尾浜は庭に枯葉を集めいらなくなった紙を燃やしていたので、探しに行こうとしたその足でそのまま庭に出て思いきり抱き着いて、冒頭に至る。
先程まで火の前にいたせいか、尾浜の体は温かく、思わずぎゅうと力をこめれば「雷蔵痛いよ」と笑いの混じった声に背中をぽんぽんと叩かれて、慌てて雷蔵は体を離した。

「ごめん」
「いいけど、どうしたの雷蔵、寂しくなった?」

冷たい手を温めるように雷蔵の手を握りながら聞く尾浜に雷蔵はわざとらしく頬を膨らませてみせる。

「違うよ勘衛門」
「うん、知ってる」

雷蔵は私たちの前では寂しいとか言わないものな。と笑う尾浜にそんなんでもないけどねと言うより早く、雷蔵の背中に別の熱がぶつかった。

「そうだぞー、雷蔵はそんなこと言わないから俺は寂しい!」
「はち、重い」
「はちが寂しかってどうするのさ」

雷蔵と同じく外出用の服を着た竹谷が雷蔵の背中にくっつきながらうだうだと続ける。昨日のうちに掃除が終われば俺も明日帰るさと言っていたのでどうやらちゃんと掃除は終わったようだ。とてもじゃないけれど見える状態ではなかったあの部屋をどんな秘術を使って掃除したのかは雷蔵には分からないが。

「雷蔵が言わないから俺が言うんだろうが」
「はちどうしたの、疲れてるの?」
「寂しいんでしょ?」
「寂しいんだよ!」

がばりと尾浜も巻き込んで抱きしめ始めた竹谷に、それが寂しいと言う人がやることかなぁと笑う雷蔵を竹谷と尾浜はぺしぺしと緩く叩く。

「分かってないなー」
「分かってないよねー」

痛くはないがなんだか腑に落ちないので手の届く範囲にあった竹谷のてと先ほどから握ったままの勘衛門の手を少し強めに握りしめて、二人の些細な攻撃を止めてみせる。握力には少しばかり自信があるのだ。
それに、分かってないなんてそんなこと、雷蔵には本当に分からない。というよりも分かってないのは二人じゃないかとさえ思う。

「だってはちも勘衛門もいるのに寂しくなんてないよ」

ちゃんと帰ってきてくれるでしょ?僕も帰ってくるし。
ね、と笑えばぽかんとした二人の顔がならんで、ほらやっぱり分かってなかったのは二人の方だったと雷蔵は確信した。帰ってきてくれないとか、寒い中に残されるとか、一人になってしまうんじゃないかとか、冬は寒いからちょっとだけ感傷的になってしまうのだ。そんなこと、ないのに。
こうやって焚火の前で手をつなげば、こんなにあったかくて、みんなちゃんとここにいるんだって分かるのに。

「雷蔵には敵わないな」

だから、こうやっておやすみの前には「いってきます」を言ってまわるのだ。また帰ってくると伝えるために、ちゃんと向き合って。
また、春は来るから、大丈夫だって、伝えに。


春を告げる君の音色
(うん、負けないよ)

省いたけど鉢屋は雷蔵とお別れしたくないから逃走中で久々知はその探索、竹谷も鉢屋を探してる途中だった。これからみんなで鉢屋さがしに言って焚火の前に連れてって「いってきます」「いってらっしゃい」会をする。はず


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