好きです。 よく知った筆跡で書かれたその四文字はいやに淡々としていて、それだけに不気味な雰囲気を醸し出していた。 目覚めると枕元に置いてある、差出人の書いていない真っ白な封筒。中には同じ真っ白な便箋が入っていて、その傍らには必ず一輪の薔薇が添えられている。 愛の言葉と薔薇の花。まるでオペラ座に住み着く怪人、ファントムのようだ。尤も私は彼に歌を教えてもらってなどいないけれど。 一週間ほど経った頃、掃除中に手紙を見つけたユウが酷く心配そうに私を呼んだ。 「ケイ、ちょっと。……どうしたんだ?これ」 一通だけだったら単なるラブレターで済ませられただろう(それはそれで一波乱起きるにしろ)。けれど七通の便箋が、全く同じ文面で積み重なっているのだ。私はきちんと封筒に戻しておかなかったことを後悔した。 「んーと、ちょっとね」 「ちょっとって量じゃねぇよこれ…異常だろ」 「うーん…」 ユウの言葉に私はただ曖昧に笑って返す。異常と言われても私にだって彼がなにをしたいのか分からないのだ。いっそのこと本人に聞けたら良いのだけれど、生憎彼がそれを置いて行くのは私が深い眠りについている頃。いつ来るとも分からない相手を寝ないで待つのは難しい。 「……まあ、ケイが大丈夫っていうならまだ何もしねえけど。もし何か変なことあったらすぐ言えよ?」 「うん。ありがとう、ユウ」 詳細を言いたがらない私を気遣ってか、そう言ってくれたユウに内心ホッとした。あまりにも説明しづらいし、何より、ユウを巻き込んじゃいけない。 掃除に戻るユウの背中を見送って、傍らの手紙にそっと触れる。どうしようかな、これ。このままじゃ溜まる一方なのは分かり切っているけれど、かといって焼却するわけにもいかないし。花と違ってダメになるなんてこともないから扱いに困るのだ。 花瓶に挿さった薔薇、それからタンスの横にある姿見に視線を走らせて、私は小さくため息を吐いた。 スペードくん、君は一体、何を望んでいるの? 130516 詩 |