ああ。 どうしてぼくは、あのとききみをはなしてしまったのだろうか。 もしはなさなければ、なにかがかわっていたのだろうか。 ああ、ああ。 おねがいです。 あのとききみにあやまれなかったぼくを、どうか、どうかゆるしてください。 *** 重い瞼を開ければ視界いっぱいに青い天井が広がった。紛れも無い、僕の部屋だ。 濡れた頬をぐいと拭って、それからふと無意識に右手を横にやる。指先がシーツに触れたところで、ハッとして。こんなことをするのも一体何回目だろう。君はもう、いないのに。 ゆっくりと起き上がりながら鈍い頭で誰にともなくもう一度問う。どうして、と。 何百、何千回。問い掛けても答えなどでないことは解っていた。 ただ僕は逃げるように幸せな夢に溺れて、そうして。目覚める度に君のいない現実を突き付けられるだけなのだと。 背に触れるのは君のひんやりとした体じゃなく、真っ白なシーツ。子供みたいに転げ回ってしわをつけていた君はどこへ行ったのか。 二人で寝るとあんなに狭く感じたベッドが、今はこんなにもひろい。 真っ青なカーテンを開けば、遠くの山際から零れた朝日が地をはうようにして届いていた。 僕はそれに目を細めて、ため息を吐く。君のいない朝を呪った、何十回目かのヒカリに。 窓辺に立ち尽くして、遠くに残る濃紺の夜から徐々に白む空のグラデーションを眺める。 世界は君というパーツを失っても何も変わらず回り続けているのに、僕はこんなにも一人進めないでいる。過去ばかり振り返って、片足どころか首までずっぽり沈んでいて。 君はこんな僕を見て笑うだろうか。 ――ねぇ。 記憶は薄れるものだっていうけれど、君のことは到底忘れられそうにないよ。 だって君はこんなにも、思い出す度に新しい傷痕を僕の心に重ねていくのだから。 願わくは。 もう一度だけ、君を抱きしめてさせて。ごめんと言わせて。 あいしてると、囁かせて。 あおく滲んでゆく世界に僕はまた、君を探す。 thx: 平/井堅 『瞳/をと/じて』 120916 詩 |